〇月✕日
最近は、依頼者が、任意開示によって入手したカルテを持参して相談に見えることが多くなっています。
もちろん、依頼者の方にとっては、その方が費用の点では多少なり少なくすみますし、証拠保全手続を取れば相当時間もかかるわけですから、そうした意味で任意開示には一定のメリットがあるからです。
弁護士にとっても、最初からカルテがあった方が、事案の検討がし易いともいえますので、この点でも、任意開示はカルテの入手方法として十分に選択肢となり得るといえます。
しかし、現実に、任意開示で入手したカルテを検討してみると、時に愕然とすることがあります。
それが何かといえば、任意開示されたカルテでは、真相が明らかにできないことがあるということです。
現在扱っているある医療事件においても、任意開示された記録中で、検査記録と、医師が記載した医師記録の記載が明らかに矛盾していました。
守秘義務の問題がありますので、具体的に述べることは控えますが、検査記録では〇〇と記載されているのに、医師記録では✕✕と記載されていて、事実として明らかに食い違っているというわけです。
その部分は医師の行った行為に関するものですし、およそ誤記するような事象ではないので、相談した協力医の方も「どうして食い違っているのか?」と首を傾げていました。
これはほんの一例ですが、残念ながら、医療機関が、事故後にカルテを改ざんしたり、事実と異なる説明をするという、事故隠し的対応をすることは、後を絶ちません。
実際、医療機関にとっては、ミスをしたという認識がある症例で、患者側からカルテの任意開示を求められた場合には、「不都合な真実」を知られたくないという心理が働くことは十分にあり得るところでしょう。
経験的にも、任意開示で出て来たカルテを検討すると、「あるはずの重要な資料が抜けている」とか「記載に矛盾がある」といったようなことは、先ほどの事例に限らず、決して珍しいことではありません。
正直申し上げて、かつては、巧妙にカルテを改ざんされてしまうと、真相解明は非常に困難でしたし、今でも真相解明のハードルは当然に高くなります。
しかし、最近は、総合病院クラス以上であれば、電子カルテを導入しているところが多くなっていますので、ちょっと様相が異なって来ています。
電磁記録である電子カルテでは、改ざんをするとその更新履歴が残るからです。
電子カルテになる前は、記録された時刻まではわからなかったのですが、電子カルテであれば、何分何秒まで記録されるというメリットがあるのですが(このメリットや実際の証拠保全の現場でのことについてはまたいずれ書きたいと思います)、更新についてはさらに更新前後の記載が残ります。
ですので、電子カルテの改ざんが疑われる場合には、証拠保全で更新履歴、更新前の記載を確認し、それを保全すればよいわけです。
ともあれ、やはり、医療ミスの可能性があり、医療機関側がそれを否定するような態度を取っている場合には、まず初めに弁護士に相談し、任意開示でよい事件か、証拠保全すべき事件かを検討してもらっておくことをお勧めします。
事件によっては、事実として何があったかが争われる可能性がありますから、そうした場合は、改ざんを誘発する可能性のある任意開示よりも、抜き打ち的な証拠保全によるべきと考えられるからです。