最近、非常に増えていると実感するのが、高齢者の介護や財産管理に関する相談や依頼です。
もちろん、その背景には、日本が世界でも例のないといわれるほどの急激な少子高齢化社会になって来ているということがあるわけですが、いずれにしても、私たちは、誰もが、遅かれ早かれ、自身、あるいは親や配偶者の問題としてそうした現実に立ち向かわなければならないわけです。
高齢者の介護や財産管理ということでいえば、真っ先に思いつくのは、成年後見制度の利用だと思うのですが、成年後見自体は、身近な人に判断能力の衰えが起きてから利用する制度ですので、現実には、どうしても後手後手の対応になってしまうこともありますし、また、手続を利用しようとしたら意外なところで手間取ってしまい、結果、被後見人ご本人の権利を擁護するという目的からすると必ずしも十分といえなくなってしまうケースも少なくないように感じます。
たとえば、最近とみに増えているのが、一人暮らしをされている老人に関する事件で、現在、当事務所の弁護士は全員がそうした案件を抱えてしまっているのですが、すでに認知症を発症されている中では、医療や介護といった問題でどのような方針を立ててあげるべきなのかの判断がなかなか難しいということもあり、弁護士としても、非常な葛藤を抱えてしまうこともあります。
そうした一人暮らしの老人の場合だと、親族の協力が得にくいという場合もありますし、そうなると、成年後見人選任の申立自体に難儀することもあり、必要な医療や介護すら十分に受けられないという事態さえ起きるのです。
こうした現実にぶつかると、つくづく日本という国は、高齢者に優しくない国なのだということを痛感しますし、こんな国に誰がしたのだと憤りを感じたりするのですが、とにかく、何が申し上げたいかといえば、後見が必要な状態になってからでは遅いということもあるので、「転ばぬ先の杖」として、お元気なうちに、「任意後見」という制度の利用の検討を強くお勧めしたいと思うのです。
まず、任意後見とは何かですが、端的に言えば、いざ後見が必要となる日に備えて、あらかじめ後見人になってくれる人を選んでおくというものです。
成年後見制度が整備されたときに、併せて設けられた制度ですが、現実に利用してみると、この制度は、色々な意味でとても役に立ちます。
任意後見は、正確には、任意後見「契約」といいます。
つまり、ご本人が、お元気なうちに、後見人になってもらいたい人との間で、「いざ、後見が必要な状態になったら後見人に就任してもらう」ことを合意しておくのです。
ただ、ご本人の真意を確認するために、公正証書にしなくてはならないことになっており、手続的にはちょっと手間がかかることになりますが、制度の悪用を防ぐためにはとても意味のあることです。
もう一つ、任意後見契約の締結と併せて、財産管理に関する委任契約を締結することがあり、セットで公正証書にするという実務的な運用がなされています(もちろん任意ですが)。
実際に、高齢者の介護や財産管理に関わっていると、任意後見契約もさることながら、この財産管理に関する委任契約は、あるととても役に立ちます。
なぜかというと、人間の判断能力の衰えは急に来るというより段々やって来ることの方が多いので、そうした状況で臨機応変に対応できるからです(あと、体調を崩して預金の出し入れや手続ができないという場合にも対応してもらえるという利点もあります)。
最近、受けた相談で、判断能力が衰えつつある高齢者がいわゆるリフォーム詐欺に遭っているという事件があるのですが、あらかじめ財産管理に関する委任契約が締結されていれば、もっと適切に対応できるのにと思うこともありました。
もちろん、任意後見契約を締結するについては、その相手が本当に安心して財産管理を委ねられる、信頼に足りる人かどうかが何より重要です。
判断能力が衰えてしまった後では、そうした人物の見極めを誤ってしまう危険もあります。
その意味でも、できるだけ早い段階で、任意後見制度の利用を視野に入れて、弁護士等に相談されることをお勧めしたいと思うのです。