事務所トピックス
弁護士 折本 和司

私の依頼者だった70歳過ぎの方で、塾の経営をなさっておられた方から挨拶状が届きました。

その中身を読んでいたく感銘を受けたので、ちょっとご紹介させてください。

 

その方は神奈川県内で長く塾を営んでおられました。

私がかつて依頼を受けた事件も、元を辿れば、その方の人の好さが裏目に出てしまったという非常に気の毒なお話だったのですが、本当に良心的に塾の経営に取り組んでおられました。

しかし、数年前にお話をした際に、「経営が厳しくなっているし、自分も歳だから、もう長くは続けられないかもしれない」というようなお話がありました。

経営が厳しくなったのは、いろいろと理由があるようでしたが、やはり、少子化の影響に加え、大手の学習塾が進出してきた影響も大きいとのことでした。

 

そして、このたび、その方から、挨拶状が届いたのです。

挨拶状には、長年続けた塾の経営からは身を引くことにしたと書かれていましたが、それに続けて、概略、以下のようなことが述べられていました。

「さすがに体力的な不安は否めないものの、私の中にある中学生のような青臭い正義感と気力は衰えを感じておりません。・・・若いころと比較すれば、知力ははるかに増していると自負しております。」

「思えば、地元にはずいぶんとお世話になりました。今後は、お世話になったこの地にご恩返しのつもりで社会貢献しつつ、第二の人生を歩みたいと思っております。」

「世の中には勉強したくても経済的理由で塾に通うことができない子供もいます。・・・私の子供時代、そのような境遇に会った友人を大勢見て来ただけに、このことを常に後ろめたく感じておりました。」

「今後は、お金を頂戴せずにそのような境遇にある子供たちに勉強を教えることによって、ささやかながら地域への恩返しを行いたいと考え、4月から地元において小さな塾を開くことといたしました。」

「私の余命か、手持ち資金のいずれかが先に尽きるまで、夫婦二人で続けていきたいと思っております。」

 

正直、驚き、そして、感動しました。

依頼者としてお付き合いしていた当時から熱く語っておられた教育への情熱を70歳を過ぎてなお失うことなく、初心に帰り、こんな形で実現しようとするなんて、頭で思ってはいても、なかなかできることではないと思います。

ちょっと話が逸れますが、非正規雇用が常態化し、経済的格差が広がる今の日本では、子どもの貧困化が非常に深刻なものとなっています。

ある統計によると、特に母子家庭の貧困率は50%を超えるそうです。

当然のことですが、食費、住居費などは生活の中でどうしても削れませんから、限られた収入しかなければ、そのしわ寄せは、勢い教育費などに及ぶことになります。

母子家庭の子供の大学進学率は40%と、全体平均の70%強よりも大幅に低くなっていますが、掛けられる教育費の差が大きく影響していることは明らかでしょう。

このような個人の努力では如何ともし難いところを何とかするのが政治の責任だと思うし、実際に事件に向き合っていると、政治の無策には本当に憤りを感じます。

母子家庭のお母さんはなかなかフルでは働けないので、どうしてもパート労働にならざるを得なくなりますが、そうすると何時雇用を打ち切られるかわからないし、もちろん低い収入しか得られません。

なので、逆に、たとえば、母子家庭(父子家庭もですが)の場合、フルに働けなくても、正規雇用扱いにすることを使用者側に減税と引き換えにでもして義務付けるというような制度を設けるだけでも大きく違ってくるのではないかと思います。

安定雇用が増えれば、その分支出も増え、車を買ったりする人も増えるわけだし、社会保険料の担い手も増えるわけですから、長い目で見れば、国や社会に活力を与えることになるはずです。

目先の利益のために労働力を安く使いたいという大企業の言いなりになって、こうした手立てを打たないのは政治の怠慢以外の何物でもないと思うのです。

 

最後に依頼者の塾のお話に戻しますが、この塾は4月に始まるそうです。

対象は、小学4年生から中学3年生まで、教材費も含め、一切無料だそうです。

問い合わせの受付は3月26日以降で、面接の上、入塾を決めるとのことです。

なお、読んだ方で、もしこの塾の連絡先を知りたいという方がおられましたら、当事務所まで電話にてお問い合わせいただければと思います。

2018年03月11日 > トピックス, 日々雑感
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