ここのところ、消化器系の事件、中でも大腸癌の医療事故に関する相談案件がかなり多くなっているように感じます。
巡り合わせということでもあるのかもしれませんが、それだけではないという気もしています。
実際、癌に関する統計を見ると、大腸癌による死亡者数は、男性では3位、女性では1位となっていて年間で約5万人にもなっているからです。
しかも、統計の推移を遡ってみると、胃癌や肝臓癌の死亡者数が減少しているか横ばいとなっているのに対し、大腸癌の死亡者数は明らかに増加傾向を示しています。
癌に関する検査技術も治療方法も大きく進歩している中で、なぜ同じ消化器系の癌である胃癌が減り、大腸癌が増えているのか、そして患者としてはどういったことを注意すべきかについてちょっと述べてみたいと思います。
大腸癌増加の理由としてよく言われるのは、食の欧米化です。
肉や乳製品の消費が増え、食物繊維の摂取が減るといったことが影響しているというのですが、ハワイに移住した日本人の発症率が高いという報道などもありますし、老廃物が溜まる臓器である大腸における疾患ということからすると、やはり、この食習慣の変化の影響は確かに大きいのでしょう。
それ以外にも、たとえば、日本人の寿命が延びているために、消化器系の癌の発症率が上がっている、あるいは、ストレス社会の影響といった指摘もあります。
ただ、一方で、胃癌の死亡率が低下しているわけですから、同じ消化器系である大腸癌の死亡率が上昇しているのは何故なのでしょうか?
まず、大腸癌の場合、比較的自覚症状が乏しいので、発見が遅くなってしまう場合があるとされていますし、患者の立場からしても、胃カメラに比べ、大腸内視鏡は検査として、手軽にはできないところがありますので、そうした影響もあるのかもしれません。
ところで、日本人の場合、大腸癌の好発部位は直腸からS状結腸移行部あたりとされているのですが、ちょっと以前に見た医療に関するニュースによると、結腸癌が増えて来ているというデータがあるそうです。
この内、直腸癌の場合は、日常生活においても、便秘と下痢を繰り返すという自覚症状が現れやすく、検便で便潜血反応が出やすいことなどもあって、そこから直腸鏡検査が実施されるという流れで、比較的早期に発見されやすい癌といえます。
一方、上行結腸や横行結腸などの上部大腸の部位にできる癌の場合は、自覚症状も乏しいことが多く、便潜血反応も出にくいということもあるので、下部大腸に比べて、大腸内視鏡検査を受けるという流れに乗りにくく、そのため、癌の発見が遅れがちとなる可能性があります。
そういえば、最近、相談を受けた大腸癌の症例は、上部結腸癌が多いと感じていましたが、もしかすると、上部大腸における癌の発生率の上昇が、大腸癌の死亡率の上昇に相当程度影響しているのかもしれません。
もちろん、こうした統計の分析は、まさに専門領域であり、素人が軽々に結論めいたことはいえないと思うのですが、はっきりしていることは、大腸癌の死亡者数が増加傾向にあるという厳然たる事実であり、そうである以上、私たちが意識して大腸癌の早期発見に努めなくてはならないということだけは明らかだと思います。
大腸癌の早期発見のためには、定期的な消化器系の腫瘍マーカー検査の実施や、CT検査、大腸内視鏡検査等を億劫がらずに受けることが必要となります。
もっとも、現実の医療事故を扱っていると、総合病院においてすら、医療者の側も、大腸癌に対する危機意識が低いと感じることが少なくありません。
最近の相談においても、胃カメラの実施によって大腸癌を疑うべき所見が見つかっていたにもかかわらず、医師がそうした知見を有していないのか、大腸内視鏡検査を実施せず、手遅れになってしまったという症例もありました。
一人一人の患者にとっては、必要に応じてセカンドオピニオンを受けることも時に重要となりますが、患者は出会った医師に命を預けているのですから、やはり一人一人の医療者が、そのことを重く受け止めて、検査所見における手掛かりを見落とさず、丁寧に検証する姿勢を常に持ち続けて医療に取り組んでもらうことが何より大切なことなのだと思います。