横浜市内の大口病院で起きた、消毒液による死亡事故というより連続殺人事件で、遂にというか、やっと犯人と思しき女性が逮捕されました。
以前から噂されていた、病院に勤めていた看護師の犯行ということですが、非常に衝撃的なのは、その動機と、事件がどうやら2件にとどまらない様相を示しているということです。
報道によれば、犯行の動機は、自分が勤務している時間帯に患者が亡くなると遺族への説明が面倒だからということのようです。
もちろん、それだけが理由ではないのだと思いますが、少なくともそれが主要な動機であるとすればおぞましいの一語に尽きますし、そもそも、そんな人間が医療に携わっていること自体、あってはならないと思います。
医療事故を扱っていると、当然のことながら、事件関係者を含め、多くの医療関係者と接する機会があります。
そして、いつも感じることは、事故を起こした加害者でさえも、ほとんどの方は、患者のために一生懸命医療に取り組んでいるということです。
今回の事件の被疑者の行いは、そうした多くの医療者の日々の努力を台無しにする、あまりに愚かな振る舞いというほかありません。
実は、前に扱った事件で、深夜に容態が急変したという死亡事故で、看護師のミスが問題になったという症例があったのですが、調査の過程である看護師さんから、「どうしても深夜の容態悪化や死亡という場面に出くわすことはあるので、深夜勤をやる時は、自分が担当している時間帯に急変がないようにと祈るような気持になることがある」という心情を聞かされたことがあります。
私たち弁護士の仕事にもいえることで、気が重くなるような仕事、局面ということは一定程度避けられませんが、それも含めてやりがいの一部だと言い聞かせて取り組むしかないのだと思うのです。
それを受け止められない人は、その仕事には不向きなわけで、そうした仕事をやってはいけないとしか言いようがありません。
ちなみに、私が扱った深夜の死亡事故の件では、直接には看護師のミスによるものではあったのですが、調査の結果、根本的には、日勤の医師からの引継ぎが不十分だったことが問題だったことが判明し、看護師の名誉が一定程度回復されるという結果になりました。
ところで、今回の大口病院の事件では、もう一点、見逃せない問題があります。
報道によれば、捕まった元看護師は、消毒液を注射した症例が20件くらいあると供述しているそうですし、短期間にさらに多くの患者が死亡しているとの情報もあるようですが、これの案件の中に、本件の元看護師の犯行による死亡事故が多く含まれていたとすれば、それらの事故は、真相が明らかにされることなく、別の疾病で死亡したとして処理されている可能性があるからです。
実際、医療事故に接していると、事故直後から、医療側が真実を語らず、真相を曖昧にしようとするケースは決して少なくないと感じますが、大口病院の場合はどうだったのでしょうか?
今後の捜査や調査においては、患者さんが亡くなられた後の病院側の対応がどのようなものであったか、その過程があわせて明らかにされなくてはならないと思います。
どうしても事件そのものの異常性に目が行きがちですが、真相を知らされないまま、曖昧に処理されるということは、個々の被害者の救済を妨げるばかりか、事故の再発を防ぐための教訓にすることも難しくなり、医療の質や医療者のモラルを低下させることになりかねません。
民事、刑事などの様々なアプローチで、真相究明が図られなくてはならないと強く思います。