事務所トピックス
葵法律事務所

提訴時に報告させていただき、その後も訴訟経過を随時報告するとお伝えしていた、「生後11か月の女児に対して肝生検が施行された後、出血多量で亡くなった」という死亡事故の件ですが、担当した2名の医師が11月16日に横浜地方検察庁に書類送検となりました。
事故から9年が経過してのことですが、警察による執念の捜査がやっと一つの区切りを迎えたことになります。
いろいろな思いはありますが、警察の方々の努力に敬意を表したいと思います。
裁判と関連するところもあるので、今回の書類送検について、差し支えない範囲でご報告させていただきます。

最初に申し上げておきますが、今回の事件につきましては、私たちが代理人に就く以前からずっと警察による捜査が進められていたものです。
肝生検後の出血への対応を怠ったことによる事故であることが明らかな状況であったにもかかわらず、事故直後の病院側の説明が「死因は不明だが、病院には責任はない」等、あまりにひどかったこともあり、遺族が強く要望してただちに警察介入となったのでした。

もっとも、私たちの基本スタンスとしては、医療事故を刑事事件化することにはあまり積極的ではありません。
医療過誤は、それ自体は起きてはならないものであることはもちろんですが、日常の医療行為の中では避け難いところもあります。
また、医療事故の真相を突き詰めて行くと、個々の医療者のヒューマンエラーの背景には、医療現場の実態、悪しき医療慣行、医療者の養成システムの歪み、さらには国の医療政策の問題などの事情にこそ真の原因があるのではないかと感じることが少なくありません。
しかし、刑事事件の中では、事件に直結した個々の医療者のヒューマンエラーを取り上げることになり、それは時に個々の医療者の将来を絶つことになってしまう面もあり、また、それでは医療事件の真相究明、再発防止に必ずしもつながらないのではないかという葛藤があるからです。
ただ、それでも、事件によっては、医療過誤事件を刑事事件化することはやむを得ないというか、むしろ、刑事事件化するしかないと感じることも、残念ながら、ケースによっては間違いなくあります。
そして今回の肝生検の死亡事故は、まさにそのような事案だと感じています。

私たちが、医療事件について刑事事件化やむなしと考えるのは、以下のような場合です。
まず、当該医療事故が「たまたま起きた」というものではなく、医療機関の内部等に事故を誘発するようなバックグラウンドが存在していることが強く疑われる時です。
そうした場合には、民事事件による解決のみでは、医療側が自ら事故を誘発する仕組みを変えようとしないことも少なからずあるので、さらなる被害者の発生を回避するためには、刑事事件化によって、根本的な仕組みの変更を追求して行かざるを得なくなるわけです。
実際、民事事件での個々の案件の解決については、ほとんどが保険会社に委ねられるので、病院側は危機意識を感じなくなることもあるでしょうし、事故を誘発する仕組みを変えることは、ビジネスとしての医療にとってはマイナスに働くという面も時にあります。
医療側がそのような意識で事故と真摯に向き合っていないという傾向は、医療経営が厳しくなっている昨今の状況でより強くなっているように感じます。
現に、今はまだ調査中の事件なのですが、内部告発を受けている医療事故があり、それも突き詰めていくと、営利追求型医療モデルが行き過ぎた結果、不幸な事故が起きるべくして起きてしまったのではないかという症例もあります。

もう一つ、刑事事件化を考慮せざるを得ない類型としては、民事事件のみでは真相解明が難しい場合です。
実際、事故が起きると、医療側は、様々な言い訳をして来ることがあります。
死亡事故で、死に至る機序は明らかな症例について、時に荒唐無稽な医学的主張を出してくるのは、もはや常套手段といっても過言ではありません。
これは、民事事件では原告側、刑事事件では警察、検察側が主張立証責任を負っているからなのですが、医療側が「一見あり得そうな他の可能性」を主張してきた場合には、捜査機関の協力を得て、司法解剖や厳密な鑑定、専門医への意見照会などを行っておくことが必要となることがあり、そうなると被害者側でも刑事事件化に踏み切らざるを得なくなるわけです。

実は、私たちは、本件の場合、この両方に該当すると考えています。
今回の書類送検では二人の医師が送検されましたが、事故の背景に、本件病院において、小児の肝生検に異常なまでに力を入れていた当該部門の体質の問題があるのではないかというのが私たちの心証であり、警察も同様の捉え方をしているようです。
また、今回の事件では、事故直後から、病院側は、肝生検後の出血のせいで死んだのではないとして、耳慣れないような医学的主張を行って、責任を否定し続けており、裁判でも同様の主張をしています。
しかし、亡くなった女児の腹腔内には、解剖により腹腔内に360mlの出血があったことが確認されています。
人間の体の総血流量は、体重の7~8%、この子の体重は当時8キロですから、総血流量の2分の1を優に超える出血が起きていたことになるわけです。
3分の1を超えると致死的ですから、当該事故は明らかに出血死だというのが常識的な捉え方のはずであり、私たちが意見を求めた複数の医師はすべてそのような意見を述べておられます。
死に至る経過を見ても、肝生検後間もなくから、脈拍数は200を超え、呼吸数も50台から60台へと上昇し、さらに四肢冷感、チアノーゼも確認されていて、その後ショックに陥っており、X線画像上も出血を示唆する所見があったわけですから、なおのこと、そのような見解が支配的でした。
にもかかわらず、病院側は、早い段階から、本件が出血死であることを否定し続けます。
また、肝生検の際、医師は、肝臓を6か所も穿刺しており、それが大量出血を招いたのですが、医師らは、穿刺回数について最初少なめに説明し、電子カルテの改ざんまで行っています。
私たちの目から見て、本件の場合は、関われば関わるほど、刑事事件化は不可避の案件なのだと強く感じるようになりましたし、むしろ、医療側の事故後の対応こそが刑事事件化を招いたのだと実感しています。

現在、民事事件の方も大きな山場を迎えようとしています。
近々、こちらがこれまでに入手した、医療側が驚くであろうものも含めた証拠を提出し、併せて医療側の医学的主張の誤りについてもきちんと指摘する予定ですが、医療側に対しては、書類送検にまで至って事態を重く受け止め、患者のための医療に取り組むという姿勢が不十分だったことや電子カルテの改ざんの件も含め、事故後に悪質な責任逃れに終始していたことを真摯に反省し、逆に、この事故を契機に、二度とこのような事故を起こさないために何をすべきかこそを真剣に考えてもらいたいと心から求めつつ、引き続き、全力で裁判に取り組んで行きたいと考えています。
この事件については、また、経過をご報告させていただきます。

2019年12月01日 > トピックス, 医療事件日記
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