事務所トピックス
葵法律事務所

医療事故における証拠保全手続で、実は意外とストレスが溜まるのは、証拠保全決定が出る段階での裁判所とのやりとりです。
証拠保全段階で対応してくる裁判官は比較的若手の方が多いのですが、中に、露骨に「マニュアル」的な対応をする人がいますし、そもそも証拠保全の目的や意味を理解していない裁判官に出くわすことも決して珍しいことではありません。
もちろん、弁護士の側も、また個々の事案の中身に応じた準備をきちんとしておかなければならず、ただ申し立てればいいということではないのですが、証拠保全は、いわば「一期一会」の「一発勝負」の手続ですので、抜かりなく決定を得て、当日の手続に臨む必要があるのです。
というわけで、証拠保全に関するあれこれを取り上げてみます。

証拠保全は、原則としてその日限りの手続ですので、もし、証拠保全手続で押さえておくべき証拠資料を本番で入手し損なうと、取り返しがつかなくなります。
それだけに、どのような証拠を押さえなくてはならないかについて、申立段階でしっかり検討しておかなくてはならないのです。
たとえば、前にここでも取り上げた感染症の症例の場合、培養、同定検査、感受性検査の結果を取りこぼすわけにはいきませんし、死因が問題となる症例の場合、病理検査の結果や資料があるなら、それもまた絶対に欠かせないわけです。
あと、経験の乏しい弁護士だと、保全の対象となる期間について深く考えないということがあり得ますが、対象の期間をしっかりチェックしないで決定をもらうと、いざ手続に臨んだ時に、その期間から外れた時期の診療記録は、任意提出に応じてもらうよう交渉してもらわなくてはならなくなり、目の前にあるのに、みすみす保全し損なうという失態になりかねないのです。

ただ、さらに問題なのは、弁護士が、いくらそのあたりをしっかり検討して申し立てても、裁判所がいろいろと注文を付け、制限しようとして来ることがあるということです。
最近でも、保全の対象期間についておかしな注文を付けて来た裁判官がいました。
いわく、事故当日だけで十分ではないかというのです。
さすがにこれには呆れ、前後の経過が重要であり、それが真相の解明に不可欠だという上申書を提出しましたが、上申書を作成しながら、医療過誤事件における証拠保全の意味についてここまで無知な裁判官がいることに非常な危惧を感じました。
医療事故において、どのような経過で事故が起き、事故後、どのような経過を辿ったかを検証することは、法的な過失、因果関係の問題を検討する上で必須であり、普通に法的思考を身に着けていれば容易に理解できるはずだからです。
にもかかわらず、このような注文が出てくるというのは、やはり「マニュアル化の弊害」があるともいえますし、また、その根底には、証拠保全手続を短時間でいかに要領よく済ませるかという発想が潜んでいるようにも感じます。
実際、ここ数年の傾向なのですが、証拠保全当日、裁判所が、やたらと終了時間を気にしているという場面に出くわします。
午後5時近くなると、裁判所が、提示が完了していない保全対象資料について「任意開示でどうか」と持ち掛けて来たりすることもあり、実際、裁判官や書記官が先に帰り、代理人が医療機関側から資料を受け取って帰るなんてことがしばしば起きています。

前はそんなことはありませんでした。
対象資料が出てこなければ、午後7時、8時になっても裁判所がその場で待ち続けるということが普通だったのです。
最初に書いたように、証拠保全手続は一発勝負の手続ですが、患者側が現場に踏み込むということは、戦闘モードに入っていることを医療機関側に知らせることにもなります。
そうなると、以後は、証拠保全で押さえ損なった証拠資料について、改ざん、廃棄のリスクが一気に高まるともいえるわけです。
ですから、裁判所が、対象資料を極端に絞ろうとしたり、対象資料が全部出てくる前に帰るなどということはナンセンスで職務怠慢の極みであり、患者の権利の重大な侵害にもなり得るわけで、あまりに極端なケースでは国賠請求の対象となってもおかしくありません。
ただ、もう一つ問題なのは、裁判所がそのような対応をしてきた時の弁護士側の対応です。
経験が乏しく、時に裁判所と闘う覚悟のない弁護士だと、裁判所の理不尽な対応に出くわしても、疑問を抱くことすらなく従ってしまう可能性がないとはいえません。
証拠保全に限らず、裁判所が過ちを犯さないなんてことはないわけで、裁判所の対応がおかしいと思ったら、時に激しく裁判所とやりあうことを厭わないという姿勢は、弁護士が当然備えておかなければならない必須の能力の一つともいえます。
もしそれを怠れば、最も重要な証拠を入手し損なって、真相解明を求める依頼者の権利を実現できなくなってしまうことにもなりかねません。
ですので、弁護士たるもの、常に緊張感をもって証拠保全手続に臨まなくてはならないのです。

証拠保全に関するお話はもう少し続きます。

2020年06月14日 > トピックス, 医療事件日記
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