第1 医療事件の特徴
医療事件の第1の特徴は、医療という非常に専門性の高い領域におけるミス(注意義務違反=過失)とそのミスのせいで悪い結果が生じたこと(因果関係)を主張、立証して行かなければならない、そのハードルの高さです。
そのため、医療事件を扱う弁護士には、医療に関するある程度の基礎的な知識が必要となります。
もっとも、そうした医学的な知識は、事案に応じて調べることである程度補えるところもありますし、2に述べるとおり、協力医に相談すればよいともいえるのですが、医療事件に即したある種の論理的思考方法は、一朝一夕ではなかなか身につきません。
そのため、できるだけ数多くの医療事件に接し、事案の解明に向けた調査、検討の経験を積んでおくことが必要なのです。
1で述べたとおり、事件の内容に応じた調査、検討を行うのですが、通常の弁護士は、体系的な医療教育を受けているわけではありませんし、臨床現場を知っているわけでもありません。
したがって、事件の真相解明のためには、その分野の専門医、看護師等の協力を求めることが必要不可欠なのです。
医療事故においては、最も重要な証拠資料である診療記録(カルテ)は医療機関側が保管しています。
それゆえ、証拠資料を入手することが真相解明のための第一歩となります。
大きく分けて、任意開示という方法と証拠保全という方法がありますが、それぞれ一長一短がありますので、事案の内容に応じて選択する必要があります。
医療事件は、示談等訴訟外の解決が図れることもありますが、過失、因果関係が正面から争われることも多く、そうした場合、訴訟になることは避けられませんし、訴訟となれば手続が長期化する可能性が高くなります。
医療事件の場合、裁判所にとっても特殊な領域なので、事実関係や医学的な争点の理解のために表の作成を求めたり、そうした主張のやりとりに時間を掛けることが多くなりますし、鑑定手続に入ることもありますので、どうしても時間が掛かってしまいます。
そのためにも、事前準備が重要となるわけです。