事務所トピックス
葵法律事務所

前回から続きます。

研修医が初歩的なミスを犯し、それを指導医がきちんと指導できていない、そんな医療現場で重大な医療事故が増えてきているのはいったいなぜなのでしょうか。
色々調べたり、話を伺ってみると、たまたまということではなく、増えることになった背景的な事情があるのではないかということに思い至ります。
すなわち、これはある臨床医から伺ったことでもあり、医療関係者が書かれた文献でも目にしたことですが、いろんな背景事情によって、医療機関が研修のためというよりも、現場の戦力として研修医を雇うようになっているという面があるのではないかということです。

今の医療の現状を見ると、たとえば、国の政策で医療費が削減され、医療機関が赤字になっているという現実もあり、また、医師の研修制度の問題で、一定の経験を有する医師を市中の医療機関が確保するのが難しくなっているという事情もあるのだそうです。
その結果、本来であれば、一定のキャリアを有する医師が配置されるべき場所に、経験の少ない研修医をあてがってしまっているわけで、それでも、指導医がしっかり指導、助言できるようになっていればよいですが、患者の側からすると、そうなっているかどうかなんて知る術はないのですから、空恐ろしい限りです。
腰椎穿刺のミスのケースでは、当該研修医は、それまで一度も腰椎穿刺をやったことがないそうで、それで髄液採取まで7回も穿刺を繰り返したというのだから、まるでモルモットかといいたくなるような信じがたい話です。
また、これもちょっと前に県内のベテランの医師の方に聞いたことですが、神奈川県内のある地域の基幹病院では、夜間の救急対応はすべて研修医に対応させているそうです。
当該医師いわく、そのエリアで救急車を呼んでもらうことがあっても、絶対に別の病院にしたほうがいいとのことでしたが、もはやシャレになりません。
実際、思うのですが、何度も何度も穿刺に失敗している間、もし指導医がそばにいたら、「これ以上は危険」となって途中で手技を交代するでしょうし、多数回の穿刺の危険性を知っていれば、術後管理は当然厳重にと考えるはずなのに、いずれの症例も、術後に明らかな異常が起きているのに、そこにも指導医が関与した形跡はありませんでした。

となると、研修医のミスは、本当は誰のミスなのでしょうか?
それは、指導医のミスであり、さらにいえば、研修医に危険性の伴う医療行為をスルーでやらせてしまっている医療機関の構造的なミスと評価されるべきだと思うのです。
前に、お世話になった医師から、研修医の医療事故を起こした病院のことで相談に行ったとき、たまたまその病院で研修医がひどい目に遭っている実情を承知しておられ、あの病院ではまともな指導が受けられないから、研修医を派遣できないと憤っておっしゃっておられました。
研修医を育てるのではなく、安易に戦力として扱うだけの病院では、研修医のためにならないということのようでしたが、本当にその通りだと思います。

医療事故を扱っていて思うのは、患者側で扱っていて感じたこと、気づいたことを医療側にフィードバックしないといけない、時には制度のあり方についても物申さなければならないということです。
まさに研修医制度のあり方が見直されなくてはならないのだと思います。

とりあえず、二つ提案があるので、書いておきます。
一つは、研修医には名札に何年目の研修医かを明記してもらい。患者が不安を感じたら、指導医の対応を求められるようにするということです。
病院側にとっては煩わしいことかもしれませんが、患者が疑問を感じたときに、声を上げられるようになるので、間違いなく医療事故の防止につながると思います。
もう一つは、すべての医療機関に、ラピッドレスポンスチームなるものを設置するということです。
これは、前に助言いただいた医師から教わったことですが、指導医がきちんと助言してくれない場合、あるいは、指導医の指示が間違っているのではと若い医師が疑問を持った場合に、科の枠を超えて、横断的に相談できるようなチームが院内に設けられていれば、研修医がそこに駆け込むことによって、医療事故の防止につながります。
検討していただければと思います。

それと、最後に医療側に強く訴えたいのは、研修医にとっても、スタートのところで、きちんとした指導を受けられず、重大な医療事故を起こしてしまうと、真面目な医療者ほどトラウマになって、その後の医師としての人生が大きく狂ってしまいかねないということで、実際に、事故を起こした研修医の方から、そのような体験談を伺ったこともあります。
医療事故は、患者だけでなく、医師にとっても大きなダメージとなるのです。

ここで取り上げた研修医による事故は、いずれも初歩的なミスで、また、いずれも指導医が目を配って普通に気を付けていれば、避けられるか、リカバーできたはずのものばかりです。
それだけに、この種の事故をいかにして無くすか、しっかりと知恵を絞って良い医療を実現していかなくてはと強く思う次第です。

2024年02月16日 > トピックス, 医療事件日記
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