事務所トピックス
葵法律事務所

高齢者を狙った詐欺事件は、いつの時代でも変わらず起きているものですが、ここのところでさらに日常化し、より悪質化しているように感じます。
弁護士として実際にそうした事件を扱っていると、「やったもん勝ち」のような風潮になっている今の時代の空気がそうした傾向を助長していて、勤労世代の善悪の判断基準が狂ってしまっているのではないかと思わざるを得ません。
判断能力の衰えつつある高齢者を狙った卑劣な詐欺被害をどうやったら防げるのかといったことをいろいろ考えていたところもあるので、ここで取り上げてみたいと思います。

まず、最近引き受けた高齢者を狙った詐欺事件のお話からしますが、その事件には2つほど大きな特徴がありました。
事件自体は、最初に自宅を訪問して心を許したところで、およそ二束三文の不動産を言葉巧みに売りつけるというもので、それ自体は以前からある手口で、屋根の雨漏りとか、シロアリ駆除などの名目のものと同様、独居の老人を狙う典型的な手口といえます(わりと良い身なりをして親切な振りをして入り込んでくるあたりは今も昔も同様ですし、警戒シグナルです)。
ただ、受任した事件の場合、複数の不動産業者が立て続けに訪れて同種の詐欺を働いているという特徴があり、この点がちょっと気になりました(いずれも更新番号が⑴なので、これも警戒シグナルです)。
そこで、登記簿謄本を取ったりニュース報道なども調べてみたのですが、これまでのところ、立て続けに訪れた2社の業者に繋がりがあるという明白な証拠には辿り着けていません。
ただ、そのうちの一社であるB社の関連事件の情報が入手できたので調べてみたところ、その業者は、別の不動産業者であるC社とつながっているらしいことが判明しました。
ところがこのC社の人間はすでに高齢者を狙った詐欺で逮捕されており、報道によると、9万人もの高齢者の名簿を入手し、それを悪用しているとのことでした。
得ている情報からすると、いずれも独居の80歳代の高齢者をターゲットにした詐欺事件のようですので、この9万人の名簿がもしかすると独居老人に関するデータでそれを共有しているのかもしれません。
ただ、いずれにしても、複数の詐欺目的の連中が独居老人に的を絞って住宅地を徘徊していることだけは間違いないといえるでしょう。

もう一つの特徴は、ここまでに得た情報では、騙された被害者は、いずれも高齢ではあるものの、いわゆる新長谷川式などの検査では30点満点中20数点程度取れるくらいで日常的な受け答えは一応できるレベルであり、それだけで見るとただちに詐欺にあたるとまではいえないかもしれないという共通点がありました。
では、なぜ二束三文の不動産の購入契約を締結したのか尋ねてみると、これも共通していて、本人にはそもそも不動産購入の認識がなく、銀行の窓口での送金についても売買代金の支払いではなく、貸してあげたくらいの認識だったりするのです(このあたりは騙しのテクニックの巧妙さということでしょうし、マニュアル化されているのかもしれません)。
ただ、確認した事例の対象物件は、いずれもまともな判断能力があれば絶対に買わないレベルのおよそ価値のない不動産であり(調査してみると時価の十倍から数十倍で売りつけられていました)、実体としては間違いなく詐欺なのですが、この種の詐欺事件の摘発に必ずしも積極的とはいえない最近の警察の対応からすると、刑事事件として立件するうえでのハードルは低くないのかもしれません。

では、私たちは、高齢者を狙って詐欺目的で徘徊する連中から、独居の高齢者を守るために何をするべきなのでしょうか。
率直に申し上げて、すべての犯罪を完全に防ぐことは難しいかもしれませんが、なんとしても高齢者の方が老後のため、あるいは子や孫のためにと貯えてきた虎の子の財産を守るために最も効果的な手段を取らなくてはなりません。
そのためになし得ることとして現状の最善の方法は、裁判所で後見人もしくは保佐人を選任してもらって、預貯金を適切に管理できるようにすることだと思います。
詐欺業者にとっては、契約をさせるだけでは目的を達せられないので、この種の詐欺の場合、銀行から送金させるところまでやらなくてはなりません(もちろん、その水際で止めるという方法もありますが、現実にはすり抜けられてしまうことも多いわけです)。
となると、そもそも多額の預貯金の管理を本人ではなく後見人か保佐人が行うことにすれば、それによって預貯金からの送金自体ができなくなるわけです。
また、後見人が就いていればそもそも詐欺業者と本人との契約自体が無効となりますし、保佐人も契約の取消権を持ちますので、事後的な対応も含めれば、この手続を実践してあげるのがベストといえます。
ただ、今回の事件でも思うのですが、テストで認知症ではないと判断されてしまうような方の場合、果たして後見人、保佐人を選任してもらえるのかという問題があります。
しかし、不動産売買のような財産を根こそぎ奪われかねないような取引の判断ができない人にこそ法的な庇護が与えられるべきなのであり、要後見、要保佐状態にあるかという選任要件は、むしろそうした観点からなされなくてはならないと思いますし、被害を予防するためにも積極的かつ柔軟に選任がなされるべきといえます。
現在の、高齢者を狙った詐欺が横行、蔓延している世の中の実態を踏まえ、裁判所が選任要件を柔軟に解釈して行かなければならないと思います。

なお、仮に裁判所の手続に委ねるのではなく、早急に保護的な対応をしたいということであれば、任意後見契約を利用し、あわせて財産管理契約を締結するという選択肢が考えられます。
この財産管理契約を締結して、多額の預貯金の入った通帳を信頼のおける人物に預かっておいてもらえば、少なくとも預貯金をだまし取られることは未然に防げますので、当面の対応としては非常に効果的といえます。

あからさまで悪質な詐欺が横行する、本当に嫌な時代になっていますが、我が身、あるいは大切な親族の老後の資金を守るために知恵を絞り、先手を打っていただくことが肝要と思います。

2024年07月21日 > トピックス, 事件日記
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