このページでは、医療事件あるいは医療自体にまつわるいろんなことを取り上げたいと思っています。
興味のある方はどうぞお読みください。
第1回 「医療事件~その奥深さについて」
最近、インターネットを見ていると、やたら「医療事件を扱います」という法律事務所の宣伝が目につきます。
私たちも、まあ、どちらかといえば、一般的な法律事務所より数多く医療事件を扱っている方だと思うのですが、正直、自信満々に、「医療事件なら何でもお任せあれ!」という風に胸を張るのはちょっとおこがましいかなと思ったりします。
やはり、医療の領域は、幅広く奥が深いわけで、医療の専門教育も受けておらず、また臨床現場のこともよくわからない弁護士にとってそう容易に扱える領域ではないからです。
相談を受けてからも、医学文献や判例を調べただけでは、見通しがつけられないばかりか、何が争点かすらわからない案件だって決して少なくありません。
ですので、文献や判例等を調べたり、懇意な医療者に相談する等して、当該事件に関連するであろう医学的知識を収集し、そこから、なぜ事故が起きたのか仮説を立てつつ、協力してくれる専門医のところに押しかけるわけですが、私たちが立てた仮説がまったく的外れだなんてことも珍しくないのです。
実際、最近扱ったある医療事件では、私たちが立てた仮説を協力医に尋ねると一笑に付されたのですが、その事件の場合、そこからの協力医とのディスカッションの中で、別の仮説を示唆してもらい、記録を読み直してその仮説を裏付ける記載や検査データが見つかったということもありました。
ことほど左様に、医療事件は、やってもやっても底が見えない、そんな事件領域です。
だから面白い(というと語弊がありますが)というか、興味が尽きないともいえるのですが。
最近も、友人の弁護士から、セカンドオピニオンということで、ある採血事故の相談を受けました、
採血で針を奥深く刺した結果、神経損傷が残ったというものですが、厳密には、どの血管を刺し、どの神経を損傷したかということと、実際に生じた症状と損傷した神経の支配領域とが一致するか、その後に残った後遺症は医学的にどう評価されるか(友人の扱っている症例はカウザルギー「CRPSのType2」と言われるものでしたが)、採血によって生じたと評価できるかといったことを詰めて行かないといけないわけで、そうした医学的機序を理解して行くことで真相に近づいて行けるわけです。
さらに訴訟になると、予期せぬ主張が医療側から出て来ることもしばしばで、裁判の展開の中で、医学的な再検討や方針変更を迫られることもまたよく見られることであり、こうした方針変更は通常の民事事件ではあまりないことです。
こうした試行錯誤を重ねながら医療事件に取り組んでいる毎日なのです。
ですので、ネット上などで、「医療事件ならお任せ下さい」的な宣伝を目にすると、「本当に?」という疑問が湧いて来ることもあったりしますが、まあ、他所の事務所のことはともかく、私たちにとって、扱っても扱っても悩みの尽きない事件領域、それが医療過誤事件なのです。