銀座の泰明小学校という公立小学校で、この春からアルマーニというブランドの制服を採用することになったものの、校長の独断で進められたこの選定がおかしいのではないかということで大きな議論が巻き起こっています。
この校長のインタビュー記事を見ましたが、非常に違和感を覚える内容でした。
こうした制服を決めるという行為を校長がほぼ独断で決めてしまえるという意思決定の手順もどうなのかと思いますが、何よりも、公立の小学校において、一式で年間約9万円もする制服を導入することが許されていいのかという話であり、決して大げさではなく、憲法が保障した教育を受ける権利に関わる重大な問題であるといわざるを得ません。
アルマーニの制服代は年間約9万円とのことで、一式分としてもべらぼうに高いわけですが、小学校は6年間ですので、子どもの成長にあわせて、最低でも2回か3回は買わないといけなくなりますから、親の経済負担はかなり大きなものになります。
また、そうなると、経済事情によっては成長にあわせて制服を頻繁に買ってあげられない場合、体形に合った制服が着れないコンプレックスで学校に行けなくなる児童が出てくることだってあるかもしれません。
先日も弁護士会で子供の貧困の問題に関する講演が行われましたが、確実に貧富の差が拡大している現在の日本において、義務教育の9年間の教育の機会が保障されているということはとても大きな意義があります。
しかし、いくら義務教育という仕組みで教育の機会が形式的に保障されていても、学校に通う上で掛かる諸々の支出が多額なものになれば、教育の機会均等は絵に描いた餅になりますし、大人の世界の貧富の差を学校という場にまで露骨に持ち込んでしまうことが教育の機会均等を奪うこともあるということに関係者は気づくべきです。
以前、ある洋服屋の破産管財人となった時のことですが、そこで扱っている私立中学の制服がブランドものだったことがあり、店舗の中にその制服が飾ってあるのを見て、「おお、ブランドものだ」と、一瞬、眩しく感じたことがありました。
しかし、その時には何の違和感も覚えなかったのです。
では今回の泰明小学校の場合とどこが違うのかといえば、端的に公立か私立かということの違いに尽きます。
私立であれば、生徒を集めるために、学校の付加価値を高め、魅力をアピールして、「この学校に入学したい」と受験を考える子供や父兄に思ってもらわないといけません。
その付加価値や魅力の中身が、進学実績やスポーツ等クラブ活動の成績ということもあるでしょうが、制服が可愛いというのも、当然OKだと思うのです。
しかし、公立の、特に小学校、中学校ということになればそうは行きません。
何よりも、教育の機会均等が実質的に保障されてないといけないからです。
銀座の真ん中にあろうが、畑の真ん中にあろうが、そのエリアの子供たちが、経済的な面でも負担を感じることなく安心して通えることこそが、何よりも優先されなくてはならないのであり、それこそが憲法が保障した教育を受ける権利の実質的保障を意味するのです。
泰明小学校の校長は、親御さんは理解してくれるはずだなどと的外れなことを言っておられるようですが、公立小学校でありながら、親に過大な経済的な負担を強いることによって子供の教育を受ける権利を実質的に侵害してしまう危険性があるのだということに思い至らないのだとすれば、あまりに想像力に欠けているといわざるを得ません。
もちろん、仮に大部分の生徒や親が校長の選択を支持したとしても、このような権利の保障は、多数決で決められるような性質のものではありません。
アルマーニとの関係では、最悪、損害賠償の問題が生じる可能性もありますが、ことは教育を受ける権利の侵害の問題であり、きちんと話し合い、速やかに今回の制服導入を取り止めるべきではないかと強く思うのです。