医療事故が起きた後、医療側から「承諾書の中に記載された合併症であり、医療ミスではない」という説明がなされることがあります。
しかし、この説明は、厳密にいえば不正確でもあり、また、遺憾なことではありますが、時に医療側が意図的に、医療ミスであることを糊塗しようとして、このような説明を行うことも少なくありません。
今日は、そのことについて述べてみます。
そもそも、合併症という言葉は、やや多義的で、曖昧なところがあります。
特定の病気に関連して起きる疾病のことを合併症と呼ぶこともありますが、ここでは、医療過誤か否かの観点での分類ですので、手術や検査等を実施した後に、その関連で起きる疾病という意味で用います。
この定義を踏まえれば、合併症が医療過誤にあたるか否かは、合併症あるいはその後に続く悪い結果が医療者のミスによって発生したのか否かによって決まるのであって、承諾書の中に記載されていたか否かによって決まるわけではありません。
たとえば、開胸、開腹等の手術を実施した際に、主要血管を損傷して死亡に至ったという症例を想定してみてください。
血管の損傷やそれによる出血自体は、通常、承諾書の中に合併症として記載されることも多いのですが、この主要血管の損傷が医療者のミスによって生じた場合、あるいは、その後の対処に医療者のミスがあり、悪い結果が生じた場合は、血管の損傷やそれによる出血自体が、承諾書の中に合併症として記載されていたとしても、当然に医療過誤となるのであり、医療側は法的責任を負わなくてはなりません。
つまり、手術などの後に生じた悪い結果が、医療ミスによって生じたものか否かが重要なのであって、それが手術の承諾書に記載された合併症の範疇に属するか否かという区分自体は、法的責任の有無を判断する上では何の意味もないことです。
したがって、事故後に、医師から説明を受ける際には、合併症という言葉に惑わされることなく、なぜ悪い結果が生じたのか、そこに医療側のミスが介在していないかという観点で、説明の場に臨み、事故を検証して行くことが肝要なことなのです。