現在、葵法律事務所の弁護士は、全員が成年後見人(判断能力の低下によるのですが、保佐人、補助人も含みます)に就任して、活動していますし、高齢者の方が依頼者、当事者となっている様々の領域の事件も扱っております。
そうした中で、個々の事件の経緯をうかがったり、また、高齢者の介護に関わる方などともお話し、さらに調査を行う中でいろいろと見えて来るものがあり、また、正直、今の高齢者がないがしろにされている社会に対して憤りを感じることもありますので、ちょっとそのことについて取り上げてみます。
以前、障害者の福祉に関わる人から言われたのは、人間が年老いるということはすなわち障害を負うことにほかならない、つまり、今目立った障害のない人だって障害者予備群なのだから、みんなもっと障害者の福祉の問題に関心を持つべきだということでした。
しかし、現実の社会においては、多くの人はそうしたことに無関心か、あるいは関心があってもどこか他人事であるようにピンと来ない人も多く、そうして過ごしているうちに、この国では世界に前例のないほどの急激な高齢化が進み、超高齢化社会がやってきてしまいました(もっとも、こうなることは統計上十分に予測できていたことで、1970年代の社会政策の基本書にも書かれていました)。
さらに、ほぼ同時に進んだ核家族化、少子化によって、大都市のみならず、日本のあちこちで独居老人が増え、老々介護による共倒れのようなニュースもあとを絶たない状況となっています。
このような社会状況の変化は、当然ながら、私たち弁護士が関わる領域にも大きな影響を及ぼすわけで、弁護士は、様々な局面で、超高齢化社会の現実に向き合うことになるのです。
それはたとえば、最初に挙げた後見人の業務の増大だけでなく、離婚事件であったり、遺産相続の問題であったり、高齢者の住居の確保の問題であったり、生活保護の問題であったりと、本当に様々なのですが、特に強く憤りを感じるのは、高齢者を標的にするような詐欺事件や悪徳商法の類があとを絶たないというか、多様化し、増大しているということです。
もはや言葉として定着した感のある「振り込め詐欺」だけでなく、悪質な「リフォーム詐欺」もあちこちで頻繁に起きています。
ある後見事件を引き受けるきっかけとなったのは、本来経済的にゆとりのある親戚の80代のおじいさんがお金の無心をしてくるので、おかしいなと思って家を訪ねたら、シロアリ駆除のための工事の契約書がたくさん出てきて、しかも、業者が毎年金支給日にやってきては、支給された年金を根こそぎ持って行っていたことがわかったからでした。
まあ、現在、裁判として扱っている事案ですが、「原野商法の二次被害」という類型もあります。
よくあるパターンとしては、若い頃に騙されて購入した「原野」を自分が死ぬ前に何とか処分しておいて子供たちに迷惑をかけないようにしたいと気に病んでおられる高齢者の心理につけこみ、「土地を売ってほしい」「うまく処分してあげる」等といって近づき、そのために必要だとか、税金対策だとか言いくるめて、逆に別の二束三文の不動産を売り付け、虎の子の預貯金を根こそぎだまし取るという手口です。
実際、栃木県の那須塩原市のホームページ上でも「原野商法の二次被害に注意してください」という注意喚起がされていますし、受任中の事件で、依頼者の方が騙されて高価で買わされた複数の不動産の登記簿謄本を取ってみると、いずれの不動産も、ここ何年かで頻繁に移転登記がされていたりしますから、そこに名前の出てくる人はみんな被害者ということになるのだろうと推測されます。
高齢者の福祉政策の貧困な日本社会で暮らす市井の人たちが老後のために真面目にこつこつと貯めた預貯金をだまし取るなんて許しがたいとしかいいようがありませんし、国の無策に対しても憤りを禁じえません。
これらの高齢者を狙った「特殊詐欺」については、たとえば70歳以上をターゲットにした詐欺については、悪質性にかんがみ、たとえ下っ端で金の授受に関わっただけの人間であっても、通常の詐欺よりも厳重な処罰を課するような刑法改正がされるべきではないかとさえ思うのです。
そんなこんなで、そうした事件に関わる機会が増えて行くと、本当に気が滅入ることもあるわけですが、現実がそうである以上、早い段階から、そうした「詐欺」に引っかからないような対策を立てておく必要があるということも痛感します。
何せ、今の日本社会は、決して高齢者、障害者に優しいとはいえない、権力を持っている側が、何もかもを「自己責任」と言いくるめて頬かむりをしているとしか言いようがないほどの、切り捨て型の社会になりつつあるからです。
対策の一つとして挙げられるのが、前にもこのホームページで取り上げたことのある「任意後見契約」の利用ですが、そもそも論ということでいえば、高齢化に備えるための情報収集をもう少し若い段階で行っておくことが必要だと思いますし、それと同時に、迂闊に個人で判断しないようなネットワーク作りであるとか、お金の管理を信頼できる機関などに任せるなどの工夫も必要といえるでしょう。
ある依頼者の方は、振り込め詐欺対策で、自宅の固定電話を外したとおっしゃっていましたが、そこまでしないといけないのかと思いつつ、妙に納得してしまったほどです。
そんな中、先日、ある施設のケアマネージャーさんともお話をしたのですが、実際に、判断能力が衰え、いろんなトラブルに巻き込まれたり、病院や施設などの手当てが後手後手になるということが多いそうで、やはりその前に、高齢化に備えて何をしておくべきか、一人一人がそのような情報や知識を得ておくことが大切だと痛感するとおっしゃっておられましたし、できれば、弁護士による勉強会のようなものをおこなってもらえればというような申し出もありました。
私たち弁護士も、個々の事件で経験した実例や判例、法制度を含めた情報をもっとしっかりと提供して行かなければならないと思っていますので、事務所としても、今後、福祉関係の方からの申し出があれば、ぜひ協力させていただきたいと思っております。
補足ですが、任意後見契約を締結する際に、あわせて間違いなく信頼できる方に財産管理を任せる委任契約を締結し、通帳は貸金庫に入れて管理してもらうなどして、手元のお金は月々必要なものだけにしておき、大きなお金の移動についてはダブルチェックができるようにしておくというような工夫も有効かと思います。
とにかく備えあれば憂いなしということで、お元気なうちに虎の子の資産を騙し取られないような手立てを取っておかれるようにしていただければと思います。