事務所トピックス
葵法律事務所

新年早々ですが、感染症問題について取り上げてみたいと思います。
感染症に関しましては、現在調査中の案件が複数あります。
それぞれの症例の検討のために感染症の専門医にお話を伺ったりしているのですが、感染症への対応のあり方は、現在の医療現場においては非常に重要な課題であることはもちろん、医療を受ける患者側においても、医療者任せにしないで一定程度の知識を持っておくべき問題であると痛感させられます。

まず、一言で感染症といってもその種類、範囲は幅広く、感染症発症に至る機序も予後も様々です。
しかし、中には対応を誤ると命に関わるものがありますから、そうした場合、実際の医療側の対応として、感染症の起因菌が何であるかがきちんと見極められているか、適切な抗菌薬が選択されているか、その抗菌薬に応じた適切な使用方法が採られているか等、感染症の種類、症状に応じて、診断、治療の手順がきちんと取られているか否かによって、患者さんの予後も大きく異なって来ることになります。
たとえば、心臓弁膜症に対し、弁の置換術を施行した後に、感染性心内膜炎となるという機序があります。
取り換えた人工弁は異物であるため、どうしても菌が付着しやすく、そのため弁が感染巣になってしまいますので、術後に発熱があるような場合は注意しなくてはなりませんし、対応が遅れると、死に直結することになります。
腸管穿孔、イレウスなどでも、腸内細菌が漏出、滲出して腹膜炎となることがありますが、そこから敗血症性ショック(エンドトキシンショックともいいます)に陥るとやはり予後不良となります。
また、元々、糖尿病を患っている方は、易感染症患者といわれて、感染症になりやすいため、特に合併症で壊疽を起こしているような場合は、感染症が潜んでいることもあって、やはりその後の発熱などの経過に注意しなくてはなりません。
とにかく、感染症に至る機序は様々ありますし、さらに、今の日本は超高齢化社会となっており、高齢者は免疫力が低下していることも多いので、体内の常在菌が異常繁殖して感染症を引き起こすこともあります。

感染症の診断、治療に関して特に厄介な問題は、抗菌薬が効かない耐性菌が増えているということです。
抗菌薬の使い方は非常にデリケートで、誤った使い方だと、生き残った菌が抗菌薬に対する耐性を持つことがあるのですが、現実には、耐性菌が非常に増えており、抗菌薬と耐性菌の関係はいたちごっこのような状態になっています。
ですので、感染症への対応は、医療側にとっても、常に新しい知見の獲得を怠ってはならない重要な課題といえるわけです。

感染症が疑われる場合には、まず血液培養などにより菌の同定を行い、さらに検出された菌にどの抗菌薬が効くかを確かめる感受性テストが実施されることになります。
感受性テストの結果の一覧で、Rと書かれていれば抵抗性ありでその系統の薬は効かない、Sと書かれていれば感受性ありでその系統の薬は効くということになるわけです。
ところで、感染性心内膜炎のように対処が遅れると予後不良となる感染症の場合には、菌の同定前の段階で、エンピリック(経験的)治療といって症状病歴などから推定して一定の抗菌薬を投与し、その後、感受性の結果を踏まえて、抗菌薬を変更する手順が踏まれます。
また、抗菌薬の投与方法についてですが、抗菌薬の種類によって、一定以上の血中濃度で菌に作用する時間が長いことが高い効果を発揮させるために必要となる「時間依存性抗菌薬」と、薬の濃度が高いことが高い効果を発揮させるために必要となる「濃度依存性抗菌薬」の違いがあるので、その違いを踏まえて、量と頻度に気をつけながら投与しなくてはならないとされています。
もちろん、抗菌薬の種類も増え、多剤耐性菌も増えているという、以前にはなかった深刻な状況に立ち向かわなければならない医療者も本当に大変だとは思うのですが、患者の立場からすれば、感染症の起因菌に対して適切な対処をしてもらえなければ死に直結することも少なからずあるわけです。

実際、私たちのもとには、明らかに感染症対応を怠ったとみられる医療過誤の相談が舞い込みます。そして、中には、対応した医師が明らかに感染症の診断治療に関する基本的な知見を身に着けておらず、臨床経験も積んでいないとしか考えられないような杜撰な対応によって不幸な結果となった症例がいくつもあります。
たとえば、ある総合病院で、菌の同定、感受性テストが行われるのですが、なぜか、最初使われていた(同定された菌に)効く抗菌薬から効かない抗菌薬に変更し、しかも、使い方についても量、頻度とも間違っていて、その後、患者は敗血症性ショックで死亡しています。
その症例の場合は、おそらく経験の乏しい若手の医師が独断で判断したのではないかと思うのですが、目の前の一人一人の患者の命に関わることなのですから、感染症に関する臨床経験が不十分な医師なら、自身の浅薄な知識で対応するのではなく、謙虚に感染症の専門医の助言を仰ぎ、患者のために万全と尽くしてもらわなくてはならないし、病院においてもそうした仕組み(感染症対応)を周知徹底すべきです。
また、患者の立場からしても、命に関わることですので、最終判断は医師を頼らざるを得ないにせよ、普段から感染症についての理解を深めておくことはマイナスにならないし、こう言っては何ですが、感染症対応を分かっていない医者がいる以上、疑問をぶつけられるくらいの知識を持っておくべき、そんな時代になっているのではないかと実感します。
今後、具体的な症例について、ここで取り上げることもあると思いますので、その都度、ぜひ参考にしていただければと思います。

2019年01月18日 > トピックス, 医療事件日記
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