高齢者の財産や老後の生活を守るために、成年後見の利用が定着していますが、関連するものとして「保佐」という手続があります。
平たくいえば判断能力の違いなのですが、細かく見て行くと後見とはいろいろな違いがあり、要件さえ満たすのであれば、現実的な選択肢として「保佐」を利用すべきと感じることは決して珍しくありません。
そこで、後見との異同を踏まえつつ、どういう場合に保佐を利用すべきかについて述べてみたいと思います。
まず後見との違いですが、後見は裁判所において「精神上の障害により判断能力が欠いている」と判断された時に付されるのに対し、保佐は「精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分」と判断された時に付されるということで、両者の間には判断能力という点で明白な違いがあります。
ですので、後見人が選任されるということは、本人=後見人ということになり、契約などの法律行為については全面的な代理権を持つ後見人にしかできません。
一方、保佐の場合、保佐人は、選任の際に定めておく「重要な法律行為」に関する同意権や一定の手続を踏んだ上での代理権を持つという仕組みになっています。
また、選任手続の関係では、後見の場合と異なり、本人に一定の判断能力があるため、裁判所において本人の意思確認の手続が取られることになります。
もっとも、実際に保佐人に就任した後の保佐人のやるべき仕事は、日常的なところでは後見とほとんど変わりません。
年に1度の裁判所への報告や、不動産の処分や遺産相続の手続等、重要な局面での対応も、実際のところ、関わっていて違いを感じることはありません。
では、保佐利用のメリットはどこにあるかですが、一つは取消権です。
保佐人は、本人が単独で、たとえば騙されて不動産を処分するなどの不利益な契約を締結してしまったような場合、詐欺や脅迫といったことがあったかをいちいち問題とすることなくその契約を取り消すことができるのです。
つまり、保佐は、本人の財産を保全するための備えとして非常に有用であるといえます。
高齢者の方とお話をすると、意思疎通は普通にできても、近い時期のやりとりに関する記憶が曖昧であったり、複雑な部分の判断ができず、混乱されてしまうといった場面にしばしば出くわします。
そうした方の場合、契約に関する具体的な損得や適否の判断は難しいのですが、であるからこそ、高齢者を狙った詐欺や詐欺的商法が横行しているのです。
高齢者を狙った詐欺商法を防ぐためには、この種の犯罪に関与した人間は、末端の人間でも厳罰に処するような制度改革がなされるべきと思うのですが、とにもかくにも高齢者が被害に遭わないようにするための最も現実的な備えの一つとして「保佐」は有効といえます。
ところで、少し局面は異なりますが、保佐と後見の違いはほかにもあります。
たとえば、本人が一定の財産を保有しておられて、相続税対策が必要であったり、遺言を作成することが必要であったりという場合です。
後見人が選任されて以降だと、相続税対策での贈与などの法律行為はできませんし、遺言作成も基本的には難しくなります。
しかし、保佐であれば、そうしたことも可能です。
もちろん、これは判断能力に対する評価(具体的には医師の意見)によって定まることであり、メリットデメリットという観点でお話することではありませんが、ご本人や親族にとっては、タイミングによって後見ではなく保佐を選択肢に加えることは検討してみる価値があるといえるでしょう。
今や日本は超高齢化社会を迎えていますので、財産保全やいずれ来るであろう相続への備えといった観点から、後見の前段階ともいえる「保佐」の利用を検討する意味は大きいと思います。
ぜひご検討ください。