事務所トピックス
葵法律事務所

前にもこのホームページで取り上げさせていただいた「フォルクマン拘縮」の医療事故が解決の運びとなりましたので、経過も含め、ご報告させていただきます。

フォルクマン拘縮とは、いわゆる「コンパートメント症候群」の内、上腕部に起きるもので、医学的な表現としては、「阻血性拘縮」がわかりやすいですね。
具体的には、肘の周辺の骨折などのあとに、内出血や圧迫などによって閉鎖された筋肉・神経・血管の組織の内圧が上昇し、循環不全を来し、筋肉の組織が壊死したり、末梢神経が麻痺するなどして肘から手指にかけての拘縮や神経障害を生じさせるというものですが、特に、小児の上腕骨顆上骨折では重要な合併症の一つとして知られています。
本件では、フォルクマン拘縮を来した結果、未成年の患者の右上肢に機能障害、神経障害,そして右手の指にも機能障害が残っており、手や指先が思うように使えない等、働く上でも日常生活でも大きなハンディキャップを背負う結果となっています。

フォルクマン拘縮は、骨折後の初期治療の段階で起きることが多いのですが、かつて伺った小児科の医師は、「普通に気を付けて治療にあたっていれば避けられるはず」とおっしゃり、「医師にとってのABC」という言い方をされていたのが強く印象に残っています。
ではフォルクマン拘縮がなぜ起きるかといえば、骨折直後の骨折部位が腫脹、つまり腫れて膨らみやすい時期に、ギプス等による固定を安易に行うことで、本来であれば、腫れて外に膨らむところを抑え込んでしまうため、骨折部位の圧が内側に戻ってしまい、血流が阻害されてその先の筋肉や神経にダメージを与えるという機序によるものです。
ですので、整形外科領域では、骨折から間もない時期は患部が腫れるので、ギプスはせず、腫れが治まってからギプス固定を行うのが臨床的には基本だそうです。
また、仮にギプス固定をしても、フォルクマン拘縮の兆候が見られた場合には、ただちにギプスを外して圧を開放しなくてはならないし、早期にその徴候に気づいてただいに圧を開放する処置をすれば、阻血による障害は生じなくて済むとされています。
ちなみに、その兆候とは、3Pとか5Pとかいわれるもので、pain(疼痛)、pulselessness(脈拍喪失)、paralysis(運動麻痺)、pallor(蒼白)などが挙げられています。
それらの症状が見られたら、とにかくギプスを外せということに尽きます。
フォルクマン拘縮は阻血の程度にもよりますが、短時間で完成してしまうとされていますし、小さいお子さんの場合や入院後の深夜に症状が現れるといった場合には、気づくのが遅れて手遅れになってしまうこともありますから、患者側も、骨折直後のギプス固定には要注意とういことを覚えておいた方がいいと思います。

本件では、当初、病院側は「ギプス固定ではなく、シーネ固定、つまり半割のギプスなので、問題はなかった」という主張をしていましたが、半割のギプスであっても、包帯で巻いて固定しており、内圧が高まることは当然にありますし、現に患者がずっと激痛を訴えていたのにシーネ固定を続け、フォルクマン拘縮で障害が残ったわけですから、通らない言い分であることは明らかでした。
なんにせよ、ギプス固定後に、激痛や爪の色の変化などの異常に気づいたら、躊躇せず固定を外し、すぐ病院に行くことが肝要です。
イロハといわれながら、未だに後を絶たない種類の事故ですので、医療のエアポケットみたいなところもあるのかもしれません。
お子さんに多いこともありますので、周囲、特に親御さんがしっかり気をつけてあげるほかないのだと思います。

ところで、本件においては、医療側の代理人の弁護士にも感謝申し上げたいと思っています。
このホームページでもしばしば指摘していますとおり、現実の医療側代理人の対応を見ていると、荒唐無稽な医学的主張で「黒を白と言い逃れよう」という噴飯物の対応が跡を絶たないのが実態ですが、本件においては、交渉のやりとりの中で、医療側の代理人が事件の落としどころを冷静に見極め、真摯にご対応いただいたことに心から敬意を表したいと思っております。

私たちは、個々の医療事件について、真相解明と、適切に民事責任が認められることを一義的に考えており、個々の医療者や医療機関を必要以上に追い込むことはまったく本意ではありません。
医療過誤は、ミスではあるものの、医療の世界では、ミスが起きることや不幸な結果が生じることは現実的には不可避なところもあるので、そのたびに個々の医療者の非を責めるということは適切ではないと考えているからです。
早期の真相解明と適切な被害回復が計られることが何より重要ですし、その上で、事故の再発防止に向けた教訓にしていただくことが私たちの望みなのです。
その意味からしても、医療機関にとっても良い解決だったに違いないと思っています。
また、事故後に、医療機関側から自発的に事故についてきちんと公表いただいたことも含め、非常に有意義な解決であったと感じております。
他の医療事件においても、医療機関側にそのような解決を図る姿勢があればと心から願っております。

最後に、この事件も、親しい弁護士から相談され、お手伝いした事件でしたが、お役に立ててよかったし、お声がけいただいたこと、心から感謝申し上げたいと思います。
前にも書きましたが、医療事件については、どうしても医療訴訟の実務的なノウハウや協力医の確保、医学的機序、過失、因果関係に関する検討のスキルなどの問題があって、おひとりで取り組んでいると行き詰ってしまうことがあり、医療事件に詳しい弁護士に相談することはとても有意義な場合があります。
ですので、相談を受け、あるいは受任した後になかなか見極めがつかず、突破口が見いだせないでおられる弁護士の方がおられましたら、臆せず、医療事故に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。

2022年03月16日 > トピックス, 医療事件日記
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