吉田拓郎さん(親しみを込めて拓郎と呼ばせていただきます)が引退されるというニュースを見ました。
拓郎といえば、広島フォーク村ということで、広島出身の私にとってはいろいろ思い出がありますので、敬意と慰労の気持ちを込めてちょっと書かせていただきます。
実は、大昔のことですが、私は拓郎のライブを二度、ただで(ごめんなさい)観に行っています。
一度目は、彼がまだデビューして間もないころで、広島のRCCというラジオの深夜放送の公開録音ということで地元の中国新聞のホールで演奏した時のことでした(関係ないですが、この中国新聞ができる前のその一角が私の生まれた場所です。どうでもいいことですが)。
おそらく1970年か1971年のことで、拓郎も20台半ばくらいだったわけですが、歌の合間のMCもとてもうまかったのをよく覚えています。
もちろん、まだ売れ始めの頃でしたが、そのころラジオでよく聴いた「マークⅡ」や「とっぽい男のバラード」、そして、「準ちゃんが吉田拓郎に与えた偉大なる影響」なんて曲を、ギターをかき鳴らしながら、かっこよく歌っていた姿にすごく憧れました。
ちなみに、馬車道の近くには、生ギターが弾ける「マークⅡ」という店があります。
店主に伺ったことはありませんが、店のコンセプトからしても拓郎の曲にちなんでるのは間違いないでしょう。
二度目は、彼の出身校の文化祭でのライブです。
彼の出身校は広島県立皆実高校で、私の行ってた学校とは違いますが、確か高校2年の秋の文化祭の直前になって、拓郎が皆実高校の文化祭に来るらしいという情報が入ってきたのです。
そこで、友達と一緒に、自転車に乗って、皆実高校の文化祭に向かったのです。
まあ、今なら、学生証を見せろとか無粋なことを言われるのでしょうが、当時はおおらかで、難なくライブ会場となった皆実高校の体育館に潜り込むことに成功しました。
当時、拓郎は、「結婚しようよ」がヒットした時期で、それまでのフォーク路線から人気ポップ歌手へと変貌を遂げようとしていた時期でしたが、その皆実高校の文化祭でも、前に見たライブと同じく、あの拓郎らしい軽妙な語り口のMCと大好きな拓郎ソングを堪能させてもらいました。
広島人にとって、拓郎は別格の存在です。
以前、広島でとあるカウンターのバーに入ったら、カウンターの端っこにボブ・ディランのCDだけが置いてあったので、理由をマスターに尋ねたら、たまに拓郎が来店されるので、彼の好きなボブ・ディランをかけてあげるのだとおっしゃってました。
また、別の店でギターが置いてあったので、そこにおられた客とギターの話をしていたら、広島人の自分にとって拓郎は神様なのだというような話を熱くされていました。
友人の弁護士でも拓郎が大好きな奴がいます。
彼は自分が書く文章の中に音楽の話を交えることがよくあるのですが、先日も彼の文章を読むと、そこに、拓郎の「イメージの詩」の歌詞が引用されていました。
「古い船を今動かせるのは古い水夫じゃないだろう」という有名なあれです。
若い弁護士たちへの励ましのメッセージ的な文章でした。
僕もこの詩は大好きですし、ほかにも「落陽」とか「春だったね」とか、挙げればきりがないほど好きな曲はたくさんありますが、ここのところ、いろいろあって、よく思い浮かべるのは、初期の「青春の詩」とか、「今日までそして明日から」あたりですね。
ある時、青春とは何だろうかという青臭い話を友人としたことがあります。
その時、思い浮かんだのは、「青春の詩」でした。
人によって、いろんな青春があるという話を、この曲の歌詞を思い出しながら話している自分のことがちなんだか面白く感じました。
そして、何かやりたいこと、実現したいことがある限り、いつだって青春なのだと自分に言い聞かせたりしていました。
また、最近、身近なところで、親しい人が亡くなるということが続き、その中には、自殺してしまった人もいたのですが、私も含め、周りの大勢の人が嘆き、悲しんでいました。
そんな時に頭に浮かんで来た曲は、「今日までそして明日から」でした。
最後の歌詞である、「私は今日まで生きてみました。そして今私は思っています。明日からもこうして生きていくだろうと」という部分を反芻しながら、ただ、繰り返しているだけのように見えても、生きているっていうことだけでとすごく意味のあることなのだと、そんなことを思ったりしていました。
言葉の力は大きいし、心に残っている歌詞によって勇気づけられることがあるのです。
ともあれ、拓郎さん、長い間、どうもお疲れさまでした。
でも、あの宮崎駿監督だって、何度も引退を宣言しながら、新作を作っています。
創作意欲が湧いたら、或いは、天から何か降りて来たなら、いつだって、引退を撤回していいわけですので、そしたらぜひまた拓郎節の新曲を出してください。
いつか、広島のどこかの店で遭遇できたらいいなと、ふと夢みたいなことを思ったりしております。