立て続けに野球絡みの話題を取り上げます。
興味があればお読みください。
この3月はWBCの話題で持ちきりでした。
ヌートバー選手、佐々木朗希選手、ダルビッシュ選手など、多くの選手の発言や情報などが連日報道されていましたが、ダントツで多く報道され、注目されたのは、なんといっても大谷翔平選手(以下、敬愛の気持ちを込めて「大谷」と呼びます)の一挙手一投足でした。
100マイル以上の剛速球を投げ、バカでかいホームランをかっ飛ばす大谷が、野球界のスーパースターであり、ユニコーンあるいは宇宙人とまで称されるのは、当然と言えば当然ですし、野球漫画の主人公としても、あまりにベタ過ぎてあり得ず、長く漫画を読み漁り、野球も大好きな私の中でも、彼に匹敵する野球漫画の主人公といえば、「スポーツマン金太郎」(古すぎてすみません。でもスカッとするのです)くらいしか思い浮かばないわけです。
しかも、WBCの決勝戦の最後の場面が、チームの同僚で、公式戦ではあたることのない、MVP3回のアメリカのスーパースターのマイク・トラウトで、極めつけはフルカウントから三振を奪ってゲームセットなんて、あまりにできすぎのエンディングを迎えるわけですから、まさに大谷による大谷のための大会だと言っても過言ではなかったでしょう。
ただ、個人的には、彼のアスリートとしての能力の高さやストイックさ以上に、その振る舞い、発言に感動しました。
特に、私が本当に素晴らしいことだと思った発言があります。
それは、「日本だけでなく、韓国や中国、台湾など、アジアの子供たちがもっと野球を好きになってくれるといい」という趣旨の発言です。
この発言自体、称賛されるべき発言だと思うのですが、さらにすごいなと思ったのは、この発言が、インタビュアーのある問いかけに対するものだったことです。
私が知る限り、彼は決勝戦の場以外でも同趣旨の発言をしていますが、いずれも似たようなインタビュアーの問いかけに答えたものでした。
そのインタビュアーの問いかけとは、「日本の子供たちに野球が広まるか」とか「日本の野球が世界で注目されるのでは」といった、いずれも日本に絡めたものでした。
それに対して、大谷は、2回とも、「日本もそうですが」「日本だけじゃなく」と断って前述の発言をしているのです。
つまり、彼は、インタビュアーの意図とは異なる回答をしているわけです。
特に、2回目の問いかけは、優勝後のインタビューに対するものでしたが、リアルタイムで見ていたら、彼は間を置くことなく、即、「韓国、台湾、中国も、その他の国も」と答えています。
ちょっと穿った見方かもしれませんが、彼は、海外で一人のアスリートとして活躍する中で、日本とかでなく、もっとワールドワイドなものの見方をするようになっており、それゆえ、何でもかんでも日本に結び付けるような、ややもすればナショナリズム高揚的な日本のマスコミのインタビューや報道のされ方にうんざりしているのではという気さえしました。
また、これから、野球というスポーツが発展して行くためには、日本国内だけではだめなわけで、アジアやヨーロッパなどにその面白さが伝わっていく必要があり、彼自身、そうした考えを強く持っていて、使命感のようなものがあるようにも感じました。
この大谷の発言から、WBCにおけるイチローのかつての発言が注目されたりしています。
それは、韓国に負けた時に、イチローが、「これまでの人生で最も屈辱的なことだ」と述べ、さらには、「今後30年はかなわないと思わせるようにしたい」と、韓国を侮蔑するような発言をしたことです。
イチローのアスリートとしてのストイックさ、能力の高さは、誰もが認めることですし、素晴らしいとも思うのですが、大谷とは明らかに真逆な、偏狭なナショナリズムを剥き出しにしたもので、当然ながら、韓国の人たちから強く反発を受けましたし、私も当時、この発言を聞いて非常に嫌な気持ちになりました。
もちろん、戦う中で自身やチームメートを鼓舞する意図だったのかもしれませんし、後者は百歩譲ってそうした趣旨とも取れなくはないですが、それにしても、韓国に負けたことを「最も屈辱的だった」などとディスる必要はないわけで、こちらの発言は非難されても仕方のないことだと思うのです。
鼓舞の仕方という点でも、今回、大谷は、アメリカと戦う前に、円陣を組んで、「今日だけは、あこがれを捨てよう」と選手たちに呼びかけていますが、この発言は、相手に対する敬意を持っていることが前提となっていますから、戦う相手を敬う気持ちを忘れない大谷の謙虚さがよく表れている、非常に深い発言だなと思いました(実際、この発言はアメリカでも非常に好意的に受け止められているようです)。
ちょっと話は逸れますが、世界から戦争をなくすためには、ナショナリズムに囚われ過ぎないことが何より肝要だというのが私の考えで、自身の国籍に囚われることなく、他国の人に敬意を示すことができる人が増え、また、他国の人に対するヘイトを口にすることが恥ずかしいことだと多くの人がそう感じるような社会にしなくてはならないと思うのです。
大谷の発言にはいろんな意味で発見があるわけで、そんなことを思わせてもくれます。
人は、何歳になっても、他者の発言、振る舞いから多くを学ぶことができます。
彼は20代の若者ではありますが、早くから日本を飛び出て、大リーグに行き、ベーブルース以来といわれる投打の二刀流に挑み、注目を浴びて成功をおさめる中で、アスリートとしてだけでなく、人間的にも成長を重ねた人なのだと思います。
思えば、あのビートルズが、反戦や平和、男女平等などのメッセージを発信するようになったのは、彼らがまだ20代のころでした。
感性の豊かさがあれば、年齢は関係ないのだなとつくづく感じるところです。
ともあれ、これからも、メジャーでの大谷の活躍を応援しつつ、その中での彼の発言、振る舞いにも注目して行きたいと思います。