事務所トピックス
葵法律事務所

裁判所における手続というのは、法律の基本書とは結構違うところがあります。
なので、習うより慣れろで、実務の場数を踏むことも大切だったりするわけです。
もちろん、裁判官によるやり方の違いといったこともあって、裁判官が転勤で交代して進め方や、事件の争点の捉え方がガラッと変わることも、そんなに珍しいことではありません。
ですので、変な話、裁判官の対応に疑問を感じたり、正直、合わないなと感じるときは、心の中で「早く転勤してくれないかな」なんて思っていたりすることもあるわけです。
一方、個々の裁判官のやり方というよりは、裁判所内部で、この種の事件の手続は今後このように進めて行こうという方針が立てられた結果として裁判手続が変わったなと感じさせられることもこれまた少なくありません。
裁判も、時代にあわせてどんどん進化、変異していくのです。
最近、遺産分割調停事件で、そのような経験をしたので、ちょっと取り上げてみます。

遺産分割の案件では、私たちが整理の過程で特に心がけていることがあります。
遺産分割では、まず遺産の範囲を確定し、次に遺産の評価を行うなどして、遺産の総額を把握することが論理的には先行します。
そのうえで、遺産に対する取り分(相続分)を確定して行き(もちろん、その中で本来の相続分ではなく、特別受益や特別寄与などの調整的な要素があるか否かの検討を行うこともあります)、そこから、誰がどれを取得するかといった具体的な分配方法を決めていく流れになるのです。
弁護士として、このような流れを意識しておくことはとても大切です。
というのは、実際の遺産分割の相談では、相談者は、この不動産がほしいとか、この金融資産がほしいという話にったり、自分はこんなに貢献したとか、相手は生前にこんなにもらっているといった話になることが多いのですが、そうした各論部分に入る前に、上記の順序で事案を整理していかなければ、そもそも相談者の希望がかなえられるかどうかがきちんと見極められないし、方針も立てられないからです。

以上のお話は、私たち弁護士が遺産分割事件を扱う上で必要な論理的な思考プロセスなのですが、最近、複数の遺産分割調停の手続で、裁判所がこの思考の流れを積極的に取り入れ、それでもって手続を進めようとしていると感じるようになりました。
具体的にどういうことかといいますと、調停手続で、調停委員が、「遺産の範囲と遺産の評価を確定して、遺産の総額について双方が了解する」という手順にやたらとこだわっているという印象があります。
それ自体、考え方の順序としては正しいと思うのですが、実際の調停の場では、それが確定するまでは、ほかの話を受け付けないという態度に固執していたりするのです。
どうやら、それはたまたまということではなく、東京の家庭裁判所ではそのような方針で手続に臨むようになっているらしく、それが横浜の家庭裁判所にも波及しているのかもしれません。
実際、東京や大阪などの大規模庁での手続きの進め方が周辺、そして地方へと波及するということはよく見られるのですが、この遺産分割調停の進め方についてもそのような流れなのでしょう。

しかし、率直に言って、このやり方を強く推し進めることについては、間違いとまでは言いませんが、やや柔軟性に欠けるという気がしてなりません。
確かに、「遺産の評価を確定して、遺産の総額について双方が了解する」ことが論理的に先行することはそのとおりですが、実際の協議の中で、並行して、分け方の議論をしたり、相続分の調整に関する言い分をぶつけ合うことをやっておくことは、手続をスムーズに進めることに有用なケースはいくらでもあるからです。
また、遺産の総額が確定するまで解決方法に関する具体的な話し合いができないとなると、かえって手続が延び延びになってしまうこともあり、ケースによっては、一方だけが利益を得て他方が不当な不利益を受けることも決して少なくないのです(一方が遺産である不動産に居座っているような場合なんかがそうです)。
ですので、原則論はともかく、裁判所においても、ケースバイケースで柔軟な進行を心掛けてもらいたいと思ったりするわけです。
ただ、いずれにしても、弁護士としては、こうした実務の状況を理解しておくことが大切であることに変わりはありません。
何事も日々精進ですね。

2023年08月21日 > トピックス, 事件日記
  • ٌm@{VAK
  • ٌm@ܖ{ai
  • ٌm@m
  • ٌm@|{D


 | 事務所紹介 | 弁護士紹介 | 取扱事件領域 | 費用のご案内 | トピックス 
(c)2016 葵法律事務所 All Rights Reserved.

ページトップへ戻る