ここでは、どのような場合に、弁護士に相談ないし依頼をすべきかについて、私たちの経験に基づいていくつか助言させていただきます。
もちろん、最終的に求めるものが何かによって、それぞれの方にとって、依頼したい弁護士も異なって来るということはありますが、一つの助言として捉えていただき、ご自身の状況やお悩みに照らして、ご参考にしていただければと思います。
まず、初めに申しあげたいのは、弁護士への相談=依頼ではないということです。
実際、私たちが受ける相談の内の半分以上は相談だけで終わります。
もちろん、法的には何もして差しあげられないということでお断りすることもあるのですが、逆に、弁護士が何らかの助言をするだけで解決してしまうということも決して少なくありません。
たとえば、離婚の話し合いをしているご夫婦の一方が相談に来られて、離婚に際しての条件として提示されている者が妥当なものか否か、あるいはどのような条件を相手方に提示すればよいかといったような相談であれば、親権、養育費、財産分与、慰謝料、面会交流、年金分割などの諸条件について、弁護士から助言が受けられれば、当事者間でスムーズに解決できるということは決して少なくありません。
そうした意味でも、躊躇せずに、弁護士に相談されることをお勧めします。
いうまでもないことですが、日本の裁判は証拠裁判主義ですので、主張を裏付ける証拠がなければ勝てません。
となると、いかにして有利な証拠を集めるかが裁判の帰趨を決めることになります。
しかし、抽象的に証拠といっても、どんな証拠が必要なのか、あるいは、どうやって集めるのか、これが意外に難しい問題です。
また、不利な証拠は、隠ぺいされ、改ざんされてしまうこともありますし、有利となる事実を知っているはずの関係者が、紛争に巻き込まれそうになると途端に口をつぐんでしまうといったことも決して珍しいことではありません。
ですので、ご自身が何らかの紛争に巻き込まれた、あるいは、何らかの被害を受けていると感じた時は、まず、紛争解決のプロである弁護士に相談し、「これからどのような証拠を集めたらよいか」ということについて、しっかりと助言を受けることが肝要です。
こうした下準備の重要性については、医療過誤や労災のところでも触れていますが、あらゆる紛争にあてはまることなのです。
実際、医療過誤事件でも、事故後に当事者の方が医療側に診療に関する事実経過を尋ね、疑問点をぶつけて回答を得ておかれたことが、訴訟になって決定的な証拠となった事例もあります(そのことについては、医療過誤のページで触れております)。
ですので、迂闊に動くのではなくて、まず弁護士に相談するということをご検討ください。
裁判は手続です。
そして手続には流れがあります。
もちろん、法的なトラブルといっても、それは、いきなり裁判沙汰になるわけではありません。
トラブルには、そもそものきっかけのようなことがあり、それが紛争に発展し、紛争が顕在化して、交渉、裁判へと移行していくわけで、そうした意味でも流れがあります。
ですので、ご自身が今、その流れの中のどこにいるのかをしっかりと見極めておく必要があります。
ご自身の置かれた状況が、事件の流れの中の何処にいるかによって、なすべき対処が変わって来ることがあるからです。
実際、私たちは、弁護士の大切な役割の一つが、紛争の予防であると考えています。
たとえば、遺言などは、良い例であり、そうした思いに基づく遺言があれば、死後の相続人間の紛争を防止することが十分に期待できます。
流れに身を任せて、何もしないで時が過ぎてしまうと、防げたはずの紛争が起きてしまうということがあるのです。
ただ、逆に、紛争が顕在化して、後戻りできなくなったとしても、その時点その時点でなすべきことは常にあります。
今、ご自身が、どういった状況に置かれているのかを見極めていただけば、自ずと、何をなすべきかがわかります。
そして、対処の必要を感じたら、弁護士に相談してみてください。
弁護士にとっても、そうしたことを考えていただけている相談者、依頼者であれば、より有効な助言がしやすくなります。
ぜひ、参考にしてください。
医療の世界では、今や常識となっていますが、弁護士の世界でも、セカンドオピニオンは非常に有用なことです。
実際、医療と弁護士の仕事は、似たところがあるのです。
医療にせよ、弁護士の仕事にせよ、専門性が高いということは、裏を返せば、専門家の一定の裁量に委ねざるを得ない場面が多いということであり、他方、最終的にはご自身が決めなくてはならない、いわゆる自己決定が必要とされるということになるからです。
医療の世界では、「患者の自己決定権」とは、すなわち、「インフォームドコンセント」=「十分な情報を与えられたうえでの同意」であり、その前提として、医療者の側に「説明義務」があるとされていますが、弁護士と依頼者との関係でも、まったく同じことがいえます。
法的トラブルに対してどのような方針を立てて行くのか、それを決めるのは依頼者自身ですが、方針を決めるためには、十分な情報が必要であり、弁護士には説明義務があります。
しかし、ある弁護士が立てた方針が正しいのか、十分な情報が提供されているのかを、ご自身のみで判断することは容易ではありません。
ですので、ある弁護士から、裁判をやりましょうと言われても、軽々にその判断に従うのではなく、別の弁護士にセカンドオピニオンを求めてみるということは、時に非常に有用なことです。
また、やはり医療と同じく、弁護士にも得手不得手はありますから、相談された領域について、必ずしも的確な助言ができるとは限りません。
たとえば、著作権問題、外国人の人権、医療過誤等はかなり特殊な部類に入りますし、大部分の弁護士が扱った経験のある離婚事件や債務整理系の事件でも、局面や事案の内容によっては、誰もが同様に扱えるとは限りません。
そういった意味においても、セカンドオピニオンは大切な選択肢となります。
民事、家事など誰にでも起き得るような事件を扱っている立場から申し上げると、医療の世界でいうところの、「かかりつけ医」のように、いつでも気軽に相談できる弁護士が身近なところにいるということは、とても心丈夫なものだと思います。
それは、いわゆる企業の顧問弁護士のように毎月顧問料をいただくという意味ではありません。
何かをきっかけに、いったんご縁ができた弁護士との間で継続的な信頼関係を築いておけば、いざという時に、携帯電話、メールなどですぐに連絡が取れることになります。
ですので、もし、信頼できる弁護士と巡り合えたら、その関係性を大切にしていただければと思います。