事件日記~刑事事件奮闘記
前にちょっと書いたのですが、なぜか、葵事務所では、今年、いつも誰かが刑事事件に関わっているという状況が続いています。
ここまで長く、刑事事件に事務所のメンバーが関わり続けているというのはなかなかないことだと思いますし、現在も、さらに新しい刑事事件を引き受けたりもしています。
そこで、差し支えない範囲で、刑事事件に関する事務所のメンバーの奮闘についてご報告しつつ、弁護士の弁護活動の実態がどのようなものであるかをご紹介したいと思います。
「勾留延長決定に対する準抗告」
この事件では、被疑者勾留が長引くと、仕事先との関係で被疑者が解雇される恐れが高まるため、何としても週を超したくないという事情があったことから、最初の10日間の勾留に続いて裁判所が行った10日間の勾留延長決定に対し、準抗告という手続を取ることになりました。
実は、この事件では、勾留に対しても準抗告を申し立てて却下されており、その後、最初の勾留満期の段階では、検事に対して不起訴処分と早期釈放を求める意見書も提出していますが、検事はそれに応じず、勾留延長請求がなされ、裁判所において勾留延長決定が出されていたのです。
これ以上の身柄拘束は不当、不要であり、また被疑者の生活の基盤を破壊しかねない有害な身柄拘束だと考えていたので、この勾留延長決定に対し、準抗告申立に踏み切りました。
手続にあたり、裁判官への面会要望を出しておいたところ、裁判所から午後7時前という遅い時間になって電話があり、「書面で書いたこと以外に何かありますか?」と尋ねられたので、書面に書ききれていない家族のデリケートな事情等を説明したのですが、週内の釈放であれば解雇を避けられそうな見通しもあったため、「もし、勾留延長を維持するとの判断が出るのであれば、せめて5日に短縮してほしい」と付け加えておきました。
延長が5日だと週内釈放となります。
すると、午後9時過ぎになって裁判所から電話があり、「勾留延長決定は維持するが、5日間に短縮する」との連絡があったのです。
その結果、被疑者は何とか解雇を避けることができました。
「連休の谷間の保釈申請」
ある事件で、ゴールデンウイークの谷間に起訴されたある被告人について、元々、連休明けに本人も参加するはずの重要なイベントの予定が組まれていたという事情がありました。
もし、被告人がそのイベントに出席できない、あるいは事前打ち合わせにまったく参加できないとなると、対外的な信用を失い、今後の仕事にとって致命的なダメージとなる可能性が非常に高いという、こちらもかなり切羽詰まった状況となっていたのです。
そこで、起訴後ただちに保釈申請をしたのですが、5月3日からは連休後半に入ってしまうので、実質的には5月2日の1日しかチャンスはありませんでした。
保釈申請をすると、裁判所が検事に意見を求めるのですが、この意見がなかなか戻ってきません。
そのため、こちらから検察官にも早急に意見を出してくれるよう催促したのですが、結局、裁判所に意見が戻って来たのは夕刻のことでした。
もうちょっと厳しいかなとあきらめかけていたのですが、裁判官と話をしてみたところ、添付しておいた被疑者が参加を予定していたイベントの資料を見てくれていおり、事情を理解してくれていたようで、本日中に必ず判断をすると言ってくれました。
結局、午後6時半ころに決定が出ることになり、多額の保釈金の現金を抱えて急いで裁判所に行き、会計で保釈金を納めて、無事、保釈が認められたのです。
その結果、本人は、無事、連休明けのイベントにも参加することができ、仕事上の信用を失うという事態をぎりぎりで回避することができました。
裁判官だけでなく、当日、午後7時近くまで、薄暗くなった会計係で待機していてくださった職員や、令状係の職員の方たちに心から感謝しつつ、裁判所を後にしました。
今年は、さらに勾留準抗告が認められた事件などもあるのですが、長くなりましたから、また別の機会に取り上げたいと思います。
ただ、こうした活動の中であらためて強く思うのは、刑事事件では、時として、弁護士にとっても相当な瞬発力が必要とされることがあるということです。
実際、今回取り上げた事件は、いずれも、単独ではなく、同じ事務所内の2人の弁護士で受任しているのですが、短期決戦で集中的な対応が必要な事件ですので、書面作成、接見、裁判所、検察官との折衝などを連携しながら手分けして取り組んでいました。
そうやって連携し、手分けすることで、1+1=2以上の成果を得ることができたようにも思います。
これからもこうした弁護活動に粘り強く取り組んで行きたいものです。
事件日記~雇用に関する「2018年問題」のお話
雇用に関する「2018年問題」をご存知でしょうか?
実は、最近扱っている事件で、労災給付支給中の有期雇用契約の労働者に対して、「次回は更新しない」という条件が提示されて、交渉の結果、撤回させることができたのですが、この事件で起きたことは、2018年に起きるであろうことの前触れではないかと思ったので、今回は、この問題を取り上げてみます。
雇用に関する「2018年問題」は、非正規で働く人たちにとっては、これからの生活の基盤を根底から覆しかねない非常に重大な問題といえます。
労働契約法が2012年に変えられ、2013年4月1日から継続して5年を超えて有期雇用契約が更新されている場合には、労働者側から申し出があれば期間の定めのない労働契約に転換しなくてはならないという制度になりました。
これだけを見ると、労働者にとって良いことのように思えますが、非正規雇用を「雇用の調整弁」、つまり、業績が悪くなったときに真っ先に切り捨てやすい存在と位置付け、正規雇用の率を上げたくないと考えるような使用者にすれば、この制度が発動する来年の4月になる前に、雇用契約を更新しない、つまり「雇止め」を行う、強い動機付けになることが非常に危惧されるわけです。
となると、そのタイミングは、5年の期限がやってくる来年の3月31日とは限らないことになります。
それよりもっと前の段階、たとえば、今年の9月30日から6か月の期間で契約更新の際に使用者側から、「次回は更新しない」という条項を付して合意を取り交わすというような働きかけがなされる可能性があると思います。
もちろん、有期雇用が、無期転換されるケースもかなり出て来るかもしれませんが、そうした場合には、制度の仕組みからして、「同一労働同一賃金の原則」との乖離が生じる可能性があるわけで、いずれにしても、こうした状況に置かれる弱い立場の人たちにとっては、目を離してはいけない時期が迫ってきているといえます。
十分にご留意ください。
ちなみに、雇用に関する2018年問題は、これだけではありません。
2015年の労働者派遣法の改訂によって、有期雇用の派遣社員が同一の組織単位で働ける期間は3年までということになったのですが、いよいよその最初の期限が2018年9月末にやってきます。
また、この2つの改訂が絡んでくる問題として、予想されることがあります。
つまり、派遣社員の立場からすると、同じ派遣先で3年以上働けないとなると、その前に、労働契約法の要件を満たす派遣社員は、派遣会社との関係で無期契約への転換を求めることになりますし(そうなれば3年を超えて同じ派遣先で働けることになります)、そういう事態になると、派遣会社とすれば、大量の無期契約社員を抱えることになるので、固定人件費が増えることを嫌う派遣会社が「雇止め」に動く可能性が高いのではないかともいわれています。
すでに派遣会社側はあれこれ対策を検討していると思いますので、派遣労働者の方々も、漫然とその日を迎えるのではなく、あらかじめ、状況をしっかり理解し、そうした動きに対応できるよう、学習しておくべき時期に来ていると思うのです(もちろん、私たち弁護士も)。
事件日記~個人再生手続のその後
前に、立て続けに個人再生事件を受任したということを書きましたが、その後の苦労の甲斐あって、最初に申し立てた事件については、無事、再生計画が認可され、確定しました。
現在引き受けている再生事件は、みなそれぞれに特徴があり、越えなければならない「ハードル」があるのですが、中でも、最初に申し立てた事件のハードルは非常に高くて、弁護士としてもかなり難儀しました。
その事件の特色は、すでに住宅ローンの支払いがかなり長期にわたって遅れてしまい、いわゆる「巻き戻し」が必要な事件だということでした。
個人再生事件のほとんどは、「家を残したい」という希望を実現するためですので、他の債務を圧縮するにしても、肝心の住宅ローンの支払いを追いつかせる手立てを示せないようでは、住宅ローンの債権者である金融機関の承諾が得られませんので、手続上お話になりません。
それゆえ、住宅ローンの債権者との折衝が不可欠となるのですが、どうやって追いつかせるか、その場合の総支払額はいくらになるのか、そういったことについて粘り強く金融機関と交渉し、合意を実現することが必要となります。
今回の個人再生申立事件では、そうした交渉が効を奏し、依頼者と、そのお子さん、そしてご両親の大切な「家」を守ってあげられたということで、非常に満足できる結果となりました。
現在、それに引き続いて申し立てた個人再生事件で、裁判所と打ち合わせを重ねていますが、こちらには、また別の種類の「ハードル」があります。
ここをどうやって乗り越えていくのか、依頼者の方と話をしながら、知恵を絞っていきたいと思っていますが、裁判所も比較的前向きになってくれているので、ハードルを越えられると信じて取り組んでいきたいと思います。
前にも書きましたが、個人再生事件は、弁護士としても、うまく解決できた時の満足度が高いので、やりがいを感じられます。
さらに弁護士としてのスキルを上げて行かねばと思う次第です。
事件日記~刑事事件、少年事件で奔走する日々
今、当事務所では、メンバー全員が何らかの刑事事件もしくは少年事件に関わっています。
もちろん、元々、それぞれに取り組んではいるのですが、全員が同時にというのは、この事務所を開設してから初めてのことかもしれません。
局面はそれぞれですが、刑事事件にせよ、少年事件にせよ、短期間で集中的に弁護活動(少年事件だと家裁送致後は付添人という名称になります)を行わなければなりません。
元々、多くの弁護士は日々の業務の中で裁判等の準備や打ち合わせに追われているものなのですが、刑事事件や少年事件は、そこに割り込んで来て、駆けずり回らなければならないわけで、弁護士としては突然降って湧いたような忙しさに明け暮れることになります。
実際、少年事件の場合だと、家裁送致から大体3週間前後で審判期日が入りますし、被疑者段階の刑事事件では勾留は10日、延長されて最大10日というところで処分が決まりますから、2~3週間の間に、できる限りのことをやらないといけないわけです。
少年事件だと、少年院行きかどうかが微妙な事件だと、審判段階で「試験観察」という審判が出ることがあり、その場合は、さらに数か月最終審判まで関わって少年の更生に手を尽くしてあげないといけないのです。
また、刑事事件のほうも、起訴されれば、被告人となり、公判手続に移行するわけで、勾留という身柄拘束が続くのであれば、保釈申請をしてあげなければいけないであったりとか、大変な状況が続くことになります。
ちなみに、保釈申請のことについてよく質問されるのですが、捜査中の被疑者段階の勾留には保釈という制度はなく、日本では、保釈が可能となるのは起訴後になります。
ただ、刑事事件であれ、少年事件であれ、その人や家族の人生、将来が掛かっているといえるような事件は少なくありませんから、弁護人、付添人の責任は非常に重いといえますし、やることは山のようにあります。
少年事件で、今後の更生のため、時には学校の先生に会いに行ったり、環境を変えるためにつてを頼ったり、刑事事件で被害者に会い、謝罪、示談をするために夜遅く遠方に出かけたり、身柄拘束を短縮するために、裁判所に不服申し立て(準抗告といいます)をしたり等々、とにかく局面、局面で、知恵を絞り、てきぱきと動くことが求められます。
弁護士にとっても、瞬発力が必要な事件領域なのです。
もちろん、罪や罰が軽くなればいいということだけではなく、被害者がいれば被害回復を図ってあげなくてはなりませんし、自らの行いを見直し、将来に生かしてもらえるような関わり方も必要なわけですが、それだけに、刑事事件や少年事件に関わり、やり終えた時の達成感は、またひとしおのものがあります。
弁護士たるもの、ずっと、刑事事件、少年事件に関わって行かなくてはならないと、そう思うのです。
事件日記~個人再生事件が続いています
〇月✕日
前にもちょっと書いたとおり、私たちの事務所では、ここのところ、なぜか続けて個人再生の事件を受任しており、そのうち、すでに申立済みの事件については、ほどなく再生計画が認可される見込みとなっていますが、このたび、約半年ほどの準備を経て、新たにもう1件の申立を行いました。
前にもちょっと書きましたが、個人再生とは民事再生法の中の一制度で、個人事業者や給与生活者のための手続となります。
この制度ができたことによって、多重債務を抱えて相談に来られる方にとっての選択肢の幅が広がりました。
それまでは破産か任意整理(個々の債権者との任意の交渉による解決)という選択だったのですが、破産だと負債も消える代わり、不動産などの資産も失うことになるのが通常ですし、任意整理では負債そのものは減らないことも多く、十分な返済資力がない方にとっては経済的に厳しい選択となります。
その点、個人再生であれば、条件にもよりますが、負債を圧縮しつつ、不動産を残すことが可能になるわけで、築き上げた生活を維持したいと希望される方にとっての有力な選択肢となるわけです。
もちろん、個人再生が認められるための要件の検討が必要となりますし、どの程度メリットがあるかを把握するために清算価値チェックシートなるものを作成しなくてはなりませんから、実際の手続の利用については、一定の経験を持つ弁護士によるそれなりの検討と準備期間が必要となります。
それと、破産との違いでいうと、破産の場合は、「負債を支払うことができない」ということを手続きの中で明らかにしていかないといけませんが、個人再生の場合は、「そのままの負債を支払うことは無理だけれど、ルールに従って圧縮された負債なら返済できるという見通しがある」ということを裁判所に示していかなければなりません。
個人再生は、負債が増えて経済的には厳しい状況にあるけれど、不動産を何とか残していきたいと希望をお持ちの方にとっては、一筋の光明ともいえる制度ですが、その分、経済的なハードルは高くなります。
ところで、実際に私たちのところに相談に見える方は、必ずしも、最初から個人再生を念頭に置いておられるとは限りません。
いろいろお話を伺う中で、その方にとっての最も良い選択が個人再生手続であろうという結論になって行くというパターンもあるわけです。
また、今後の収入見通しが不確定であったりする場合もあり、準備を進めながら、個人再生の適用条件を満たしていくように努力をしていただかなければならないということもあります。
そういう意味からすると、個人再生は非常に動的な手続であるともいえるわけです。
個人再生手続が視野に入るような事例の場合、相談、依頼を受ける弁護士にとっては、選択肢が増えた分、判断に迷うケースも増えていますし、それぞれの手続きの内容や得失に関する説明に時間を取られる大変さもありますが、家族のために不動産を残してあげられるメリットのある個人再生が利用できれば、弁護士にとっても、良い仕事ができたという満足感もより大きなものがあります。
自宅不動産を手放したくないけれど、債務超過で困っている方がおられましたら、諦めずに、ぜひ個人再生も視野に入れた検討をされてみるとよいと思います。
なお、最初に書いた、近々計画が認可される見通しの事件については、手続中にちょっと珍しいけれど今後に役立ちそうな経験もしましたので、いずれまた取り上げてみたいと思います。