事務所トピックス

事件日記~ある刑事事件での体験、そして刑事弁護、刑事司法について考えること

葵法律事務所

昨年からつい先日まで、当事務所で扱って来たある刑事事件のお話をしたいと思います。
その事件は、地裁で実刑判決が出たところから引き受けた窃盗の控訴、上告事件だったのですが、高裁でも実刑判決が出て、そこから最高裁への上告、さらには上告が棄却されてからの異議申立というかなり稀な手続にまで関わりました。
正直、途中から刑事弁護を引き受けるというのはやりにくい面があり、躊躇するところもあるのですが、その事件の場合、被告人には非常に気の毒な事情があって中途受任することとなりました。
「気の毒な事情」の中には、刑事弁護、刑事司法手続のあり方に関わる問題もあるように思いますので、取り上げてみたいと思います。

その事件は昨年春に地裁で実刑判決が出たのですが、その直後、被告人の内縁の妻の女性が事務所に相談に来ました。
そこで聞いた話は、俄かに信じ難いような内容を含んでいました。
まず、被告人は、家族のために働かなくてはならず、被疑者段階から、被疑者国選弁護人となった弁護士に示談交渉をとお願いしたそうですが、それにはまったく応じてもらえなかったというのです。
示談交渉すらしていなかったこともあってか、被疑者はそのまま起訴されるのですが、驚いたのは、国選弁護人のそれまでの接見回数と接見時間です。
被告人によると、弁護人は合計10回くらい接見に来たそうですが、毎回数分程度しか接見せず、すぐに帰ってしまうというのです。
そして、起訴となった頃に、これからはもうあまり来ないというようなことまで言われたそうです。
また、保釈申請をとお願いしたら、それも自分でやるようにと言われ、やむなく自分で申請したら保釈は認めてもらえなかったそうです。
その後、2度目の保釈申請はお願いしてなんとかやってもらえ、保釈許可決定はおりたのですが、判決前には、弁護人から「示談しなくても執行猶予になる」と言われていて、いざ判決期日に臨んだところ、実刑判決が出たのです。
また、判決の直前には、「もし万一実刑判決になっても保釈中なので家に帰れる」とも説明されたそうです。
しかし、そんなことはあるはずもなく、被告人は判決後、そのまま身柄拘束されます。
国選弁護人は、法廷で、「すぐに控訴するように」と助言したそうで、被告人もそれに従い、即日控訴の手続を取ったのですが、家族のために働く必要もあることから、すぐに家族を通じて再度の保釈申請をと要望したところ、「控訴したらもう弁護人ではない。すぐに保釈申請したいなら、私選受任となるので着手金を用意するように」と言われたそうです。
幼い子供を3人抱えている状況で、元々経済的に厳しいところへ持って来て、夫が働けないわけですから、どうしようもなくなって、当事務所に駆け込んで来られたのです。

いろいろと事情を聴いた結果、その弁護士の活動があまりにひどいと感じたので、結局、控訴審から弁護を引き受けることにしました。
保釈申請の準備のため一審における事件の経緯などを把握する必要があると思い、問題の弁護人に連絡をしたのですが、一切協力できないと断られました。
さらに、その直後、内縁の奥さんにその弁護士が連絡を入れ、事務所に呼びつけた上で、「控訴しても保釈なんか認められるはずはない。その弁護士は金目当てだから断った方がいい」と言い放ったそうです。
その弁護士の対応にあきれつつ、まずは保釈申請をしました。
一審の裁判所も、国選弁護人の弁護活動に疑問を持っていたのか、保釈はわりとあっさり認められました(ちなみに、保釈については、時間が経つと高裁での判断となりますが、それだと記録を読めていないため、さらに判断が遅くなるので、控訴後すぐに地裁と掛け合って、地裁に記録をとどめて判断してもらうことで、早期保釈を実現することができました)。
なお、保釈金については保釈支援協会を使っており、そのことについてはいろいろと思うところもあるのでまた別の機会に取り上げたいと思います。
その後の控訴審における弁護活動ですが、親族に協力をお願いして、被害者との示談を成立させるなどできる限りのことはやりました。
控訴審では、示談できたこともあって減刑はされたものの実刑判決は変えられなかったのですが、被告人も弁護活動の内容については納得してくれていると思います。
しかし、それだけに、被疑者段階から一審を担当した国選弁護人に対しては強い憤りを感じているとのことです。
確かに、被疑者、被告人にとっては担当する弁護士しか頼れる人がいないわけですから、唯一の頼みの綱である弁護人がなすべき弁護活動をやってくれなければ、不起訴、罰金となるべきものが起訴となり、執行猶予どまりのはずのものが実刑となるという、まさに天国と地獄の差となってしまうこともあるわけで、憤慨されるのも当然のことと思います。

実は、このような弁護人がいるという話はこれまでも耳にしたことがあります。
ただ、その背景には、国選弁護の費用が低すぎること、特に収入が不安定な若手弁護士にとっては、国選弁護で効率よく日当などの収入を得たいという動機が働いてしまうという現状があるように思います。
もちろん、個々の事件において手抜き弁護にあたるようなことがあってはいけないのですが、一方で国民の方々に知っておいてもらいたいこともあります。
私たちは刑事司法の一翼を担い、被疑者、被告人の権利を守り、また可能な限り被害回復、再犯を防ぐための説諭や環境調整にも努めているわけです。
しかし、刑事手続の現状を見るにつけ、この国の司法行政は、弁護人が負っている重い役割を軽視していると感じることがしばしばあることもまた事実です。
刑事司法の一翼を担う弁護士に対して、それに見合う報酬が支払われるようにならなければ、結果として司法に対する信頼が失われることになりかねません。
カルロス・ゴーンの問題もあり、刑事司法手続に対する国民の関心が高くなっていますが、多くの弁護士が、弁護士による弁護を受ける憲法上の権利を実践するという重い重責を低額の報酬で実践させられている、このおかしな現状を変えるべきではないかという視点、問題意識を共有していただければと思います。

2020年02月16日 > トピックス, 事件日記

医療事件日記~乳児に対する肝生検後の死亡事故に関する訴訟の経過報告

葵法律事務所

今から2年余り前に提訴した、横浜市内にある総合病院における生後11か月の乳児に対する肝生検後の死亡事故に関する損害賠償請求訴訟の弁論期日が本年1月29日に横浜地方裁判所において開かれました。
この裁判では、この間、ずっと弁論準備手続という、法廷ではない場所で手続が行われていましたが、今回の期日は公開法廷における弁論手続に戻してもらいました。
その理由はいろいろあるのですが、一番大きな理由は、当時、本件事故に関わった複数の医師から、被告病院の医師らの過失による死亡事故であることについて真実を伝えたいという申し出をいただけたということによるものです。
私たちは、この内部告発を受け、この病院の体質といえるかもしれませんが、事故の背景にある実態といったことも含め、公開法廷でそのことを正面から訴えるべき時期に来ていると判断をしました。
まだ事件が終わったわけではありませんが、そのことについてご報させていただきます。
なお、確認したところでは、翌1月30日付の神奈川新聞の社会面でこの期日のことが取り上げられていました。
今回は、公開法廷で意見陳述を行いましたので、その原稿を転記する形でご報告ということにしたいと思います。
長くなりますが、以下、ほぼ原文のままで引用して掲載いたします。

本日の弁論期日におきまして、時間を取っていただき、まずは裁判所に御礼申し上げます。

通常の民事事件で審理中途で意見陳述を行うことは比較的稀なことかと思いますが、本件については、弁論準備手続を重ねていた間に、様々なことが起きており、それによって判明した事実もございます。
その結果、本件事故自体、そしてその後の対応も含めて本件に関する被告の悪質さがより明らかとなってもおりますので、これらの事実について、本日提出の準備書面、証拠を踏まえて、意見陳述させていただきたいと思います。

まず、本件は、被告の運営する病院において、生後11か月の乳児に対する肝生検が実施され、それから数時間後に急変して死亡したという症例であり、司法解剖においても「肝生検に起因する出血死」と明確に結論付けられております。
にもかかわらず、被告側はずっと肝生検後に出血が生じていたこと自体を争い、ミトコンドリア肝症による急激な代謝異常で生じたことだとして、肝生検後の経過観察における過失をも否定して争っているわけです。

本日提出した2通の準備書面では、この点に関する被告主張が虚構であること、本件は極めてシンプルな「肝生検に起因する出血死」の症例であり、肝生検後の経過観察で多々あった出血兆候を見逃し、出血に対し適切な対処を怠ったことによって、体内の血液の2分の1を優に超える出血を来し、生後11か月の乳児を死なせたもので、被告が法的責任を負うべきことが明白な事案であることを、医学的な知見と事故関係者の陳述書などを基に詳細に指摘いたしました。

準備書面の要旨は以下のとおりです。
まず、本件では、肝生検後、脈拍数が分あたり200を超え、呼吸数が分あたり60を超え、さらに口唇チアノーゼ、四肢冷感、亡尿などの、明らかに出血によって生じたと見られる症状、所見について、たとえば、発熱は出血によるショックとは矛盾するであるとか、多呼吸だとクラスⅡのショックにあたるはずとしながら、拡張期血圧が上昇していない等として、あくまでショックではなかったとし、出血が起きてないといった主張を行っていますが、そもそも発熱はサイトカインの影響で起きるもので、出血性ショックと矛盾しないし、クラスⅡのショックではない根拠とされた拡張期血圧については被告病院では異常が現れて以降そもそも測定すらしていないにもかかわらず、「上昇していない」として、ショックを否定する根拠としているわけです。
わかりやすくいえば、ショックに陥っていたことを否定するために、嘘の情報、誤った医学的知見を紛れ込ませているといっても過言ではありません。
結局のところ、本件における被告の主張は、6回もの穿刺を行った肝生検後の出血で普通に説明のつく事象を、出血とは無関係であるとこじつけようとしているにすぎず、およそ医学的にも合理性のない主張なのです。
本件事故では、肝生検当日の午後3時50分ころに急変していますが、その直後のレントゲン写真でも明らかな出血所見が確認できます。
被告は、乳児は脂肪組織が少ないため、はっきりと写らないことがあるなどの医師の意見書を証拠として提出し、出血はなかったとしていますが、前日の写真では臓器がくっきりと写っているのでその差は一目瞭然ですし、今回、内部告発をした当時救命に関わった医師も、このレントゲン写真で、肝臓の周囲がくっきりと写っていないことから出血が確認できると陳述書で明言されています。

被告が誤った情報で責任を言い逃れようとしていることは、ミトコンドリア肝症に関する主張においてより顕著となります。
そもそも、ミトコンドリア肝症は、極めて稀な疾患です。
この点、被告が主張の拠り所としているミトコンドリアの形態異常は、本件の場合、およそ典型的なものではありませんし、形態異常は、ミトコンドリア肝症の鑑別において特異性がなく、続発性、つまり他の疾患から二次的に発現することがあるとされているもので、およそ鑑別の決め手にはなりません。
被告もそのことは承知しているためか、患者に現れた所見、身体的特徴を根拠にミトコンドリア肝症が疑われるなどとの主張を行っています。
しかし、被告が取り上げた「強度の貧血」「凝固異常」「中等度以上の肝障害」といった所見は、すべて急変後のものであり、これまたすべて出血性のショックが非代償期に陥っていることと矛盾しないものです。
現に、死後の解剖においても、ショック肝、ショック腎であったことが指摘されており、肝臓にも腎臓にも、心臓にも血液がなかったことが確認されています。
逆に、肝生検前には、貧血も、凝固異常も、中等度以上の肝障害もなかったわけで、それが肝生検後わずか数時間の間に進行し、大出血を来すことなどあるはずもありません。
ちなみに、急変後、強度の貧血を来した点についても、被告は出血では説明がつかないと言い切っていますが、急激な出血が起きると、血管外から水分が血管内に戻って来るため、血液は希釈されることになりますし、本件では肝生検開始前から輸液が行われており、肝生検後には輸液量が倍に増量されたという事実もあり、この輸液によっても血液は希釈されることになります。
要するに、被告は、出血に関する基本的な医学的知見も無視し、さらには、本件で輸液が実施されていたことも無視して、誤った医学的評価でもって責任を逃れようとしているもので、これは一例にすぎず、被告のこのような手法は枚挙に暇がないといっても決して過言ではありません。
今回、私たちは計40ページに及ぶ準備書面を提出しましたが、かなりの部分を、被告の虚偽主張を医学的に論破するために割いており、怒りを通り越して、あきれるくらいなのです。

本件では準備書面を2通提出しましたが、2通目の準備書面は、今まで述べたことを踏まえつつ、本件における真実をより明らかにするためのものです。
弁論準備手続が行われている間に、私たちは、本件事故等、被告病院に勤務していた複数の医師から内部告発を受けており、今回の手続で、2名の医師の陳述書を証拠として提出いたしました。
いずれの医師も、本件事故に直接関わっていた方ですが、両医師とも、本件事故が「肝生検に起因する出血死」であり、被告病院の医師らの過失さえなければ救命できていたはずだと断言しています。
また、内部告発の中には、被告病院において直近で同種事故が起きていたことの指摘もありますので、その点を含め、被告の有責性についてもはや争う余地のないものであることを準備書面において指摘しております。
告発をしてくれた医師の内のお一人は、本件事故に直接関わり、肝生検施行後の患者の容態観察を行っていて、刑事手続で書類送検された当時の研修医の方です。
同医師は、「本件事故は肝生検に起因する出血死であると認識していることを前提に、自身が肝生検後の経過観察に直接関わり、出血を疑うべき状況を確認していながら、上級医の指示に従い、出血に対する対処をせず、そのまま経過観察を続けた過失を認め、それがなければ救命できたはずである」と述べておられます。
また同医師は、遺族である原告らに謝罪の手紙を渡されていますので、その手紙も証拠として提出しております。
同医師は、陳述書や手紙で、何か重大なことが起きていると思い、上級医に何度も相談に行ったが、対応してもらえなかったことを具体的に述べ、その後経験を積んだ医師として事故を振り返り、本件事故については「当然に出血を疑うべき状況であった」として、「出血を疑って対処をしなかった過失」を認め、その過失さえなければ救命できていたと明確に述べてくれています。
もう一人の内部告発者である医師は、現在も、済生会系列に勤務されている医師であり、勇気をもって告発していただきました。
同医師は、急変後の蘇生に関わった方ですが、やはり本件事故について極めて重大な事実を述べておられます。
同医師は急変から1時間半あまり経過した時点でエコー検査を実施した医師ですが、このエコーで肝臓の周囲、つまり外側ですが、出血の所見を確認したそうです。
同医師は、急変直後のレントゲン写真を確認し、同写真でも出血所見があることを明言しており、やはり、本件が肝生検に起因する出血死であることを明言しております。
このエコーについては不可解な事実もあります。
同医師は、エコー画像をプリントアウトしたそうですが、その後、このエコー写真は病院内で紛失したそうです。
また、裁判で被告は、当初診療経過一覧表で、同医師のエコーで、カルテの記載通り、腹腔内出血を疑う所見と診断したことを認めていたのですが、後になって、腹腔内出血は認めず、肝被膜下血腫と言い換えています。
しかし、この点について、同医師は自身の認識とは異なるし、そのように述べたことはないと断言しておられます。
端的に申し上げれば、被告側は、裁判の手続が進行するなかでも、自身に不都合な事実を捻じ曲げるような対応を重ねていることになり、非常に悪質というほかありません。
同医師は、本件事故に関連して、もう一つ重大な事実を指摘しておられます。
それは、本件事故に先立って、被告病院内で肝生検に起因する出血事故が起きていたという事実です。
同種事故の有無については、すでに求釈明を行っておりましたが、被告は、同種事故の存在を明らかにしておらず、もし同医師の指摘どおりであれば、この点でも被告は虚偽の回答をしていたことになります。
告発した医師によれば、この同種事故は、本件事故の1~2年前に、同じ小児肝生検チームが行った肝生検の後に起きた事故で、被告病院には小児外科がないため対処できず、世田谷にある国立成育医療研究センターに救急ヘリで搬送され、一命を取り留めたとのことです。
研修医の方は本件事故の年に被告病院に来ている医師で、その事故のことは知らないそうですが、上級医は当然知っていたことになります。
仮に肝生検後の出血事故であったとすれば、その教訓がまったく生かされず、本件事故の発生につながったもので、その意味でも同種事故の内容は非常に重要な意味を持つことになります。
私たちは、この内部告発を踏まえ、再度の求釈明を申し立てました。
今度こそ、被告側が誠実に対応してくれることを強く求めます。

本件ではほかにも重大な問題があります。
その一つが電子カルテの改ざんの事実です。
この改ざんの経緯ですが、事故後の遺族との話し合いの中で、病院側が「死因は不明だが、病院に責任はない」等の極めて不誠実な対応を行ったため、不審を感じた遺族が司法解剖を希望し、未明に警察介入となったのですが、その明け方に電子カルテの改ざんが繰り返されます。
実際、穿刺回数を少なくするであるとか、肝生検の1回目はリアルタイムエコー下ではなかったといった記載を削除するといった改ざんが行われています。
この電子カルテの改ざんの手法は、確定履歴の改ざんではなく、仮登録状態にした中での改ざんであるため、通常の証拠保全手続ではまず入手できないというものです。
一般の方には理解しづらいことかもしれませんが、このやり方がまかり通るのであれば、事故の事後的な検証はおよそ不可能になりかねないというもので厚労省が定めた電子カルテの原則に反するとも考えられますので、あわせて問題提起したいと思います。

以上、本件について述べさせていただきましたが、詳細な医学的反論に加え、2名の医師の内部告発もありましたので、本件事故の法的責任の有無ということでいえば、すでに決着は着いたといっていい事案です。
事故に関わった医師が自身の過失を認め、医師が適切に対応していれば救命できていたと述べて、謝罪している事件で、被告がさらに争い続けることは、単に不毛ということにとどまりません。
かけがえのない生後11か月のお子様を失った遺族に対し、医学的にでたらめな主張を重ねることで、さらなる苦しみを与え続けているのだということを、被告、そして被告病院の関係者の方々は、強く自覚し、反省していただきたいと心から願っています。

医療事件を扱っていると、あるべき医療とは何かということをいつも考えさせられます。
私たちは、本来、医療者、医療機関を断罪したいと考えているわけではありません。
医療事故が完全になくなることはないのかもしれませんが、医療者、医療機関が、常に事故を真摯に反省し、教訓とする姿勢で臨んでいただければ、不幸な事故を減らすことができます。
「患者のための医療」は、突き詰めて行けば、「医療者の幸福」にもつながるのだと確信しています。

最後に、本件については年末ぎりぎりに刑事事件に関し、不起訴処分が出されていますが、ご遺族の意向を踏まえ、近日中に検察審査会に審査請求の手続を取る予定です。
刑事事件についてのお話はまたいろいろありますが、そのことについては申立時点でご報告したいと思います。

2020年01月31日 > トピックス, 医療事件日記

新年のご挨拶

葵法律事務所

当葵法律事務所も4年目の新年を迎えることができました。
旧年中は、大ベテランの岡本秀雄弁護士を迎え、事務局も拡充して、より充実した業務体制とすることができました。
扱わせていただいている事件や所属弁護士の活動領域も、一般民事件をはじめとして、医療事件、相続事件、離婚事件、後見、破産管財事件、再生事件、刑事事件、交通事故、労災、行政事件、環境問題、憲法問題と、より広がり、かつ活発になっていると実感しております。

これからもさらに市民、県民の方々に寄り添う姿勢を失うことなく、一人一人の弁護士が研鑽を積むことを忘れることなく、業務に取り組んでまいりますので、どうかよろしくお願い申し上げます。

皆様にとりましても良い1年となりますように。

2020年01月20日 > トピックス

医療事件日記~ある証拠保全で気になったことPart2

葵法律事務所

先日、Part1を書いてその後Part2が書けないままとなっていました、ある医療事件の証拠保全の件を取り上げます。

Part1では、電子カルテの証拠保全の現場で生じることとして、「一括出力のチェック項目に漏れがないことをパソコンの画面上で確認しても、実際には印刷の対象とならず、いちいち電子カルテに紐づけされていないものがかなりあって、しかも印刷ができないものもあり、結局、データが表示されたパソコン画面を写真撮影して保全せざるを得なくなった」という問題を取り上げました。
これは、電子カルテの証拠保全を引き受ける弁護士にとって、もはや基本的なスキルといっても過言ではありませんが、そうなると、入院期間や手術の回数によっては、それこそ膨大な時間を要することになります。
今回取り上げる気になった問題とは、そのこととも関連しますが、裁判所の対応に関することです。

実は、今回の証拠保全手続について裁判所と事前に打ち合わせを行った際に、裁判所から強く念押しされたことがあります。
それは証拠保全の終了時間でした。
その日は午後1時スタートだったのですが、担当裁判官が、「午後5時までに裁判所に戻らないといけない。したがって午後4時過ぎには終わるようにしてほしい」と強く言われました。
とはいえ、スムーズに手続が進むか否かは、病院の対応如何のところもあり、またPart1で取り上げた電子カルテの仕組みに絡んだ問題もあるので、午後4時過ぎまでに終わるということをこちらが請け合えるはずがありません。
実際、出力されないデータの保全に四苦八苦しましたし、プリンターを2台にしてもらい、フル回転させても全然印刷が終わらなかったくらいなのです。
そんな中、裁判官はぎりぎりまではいてくれたものの、最後は、残りは任意提出の扱いでということになって、印刷終了を待たずに病院から退出してしまいました。

後になって、なぜ裁判所があれほど時間を気にするのかについて弁護士同士で話し合い、考えてみました。
もしかしたら、働き方改革(この言い方が何気に胡散臭くて嫌なのですが)の影響かとか、裁判所の労働組合との関係での取り決めがあるのではないかとか、いろいろ考えてみましたが、本当のところはよくわかりません。
しかし、考えてみると、証拠保全は一発勝負なので、裁判所が時間切れで後は任意でということでは危なっかしくてお話になりません。
実際、過去には、午後8時、午後9時までかけて実施したことも幾度かありますし、その時は裁判所はちゃんと最後まで付き合ってくれました(というか、裁判所が主体の手続なので、それが本来のあり方です)。
今回の証拠保全では病院側の対応に不足な点はなかったのですが、それでも裁判所が帰る前の時点では、すべてのデータを確保することはできませんでした。

もし、午後5時までに終えなければならないというようなお役所的な対応が今後広がるということになると、予想されるカルテの量が膨大であるような場合には、それこそ午前9時から開始してもらうしかなくなるかもしれません。
電子カルテの仕組みの複雑さや問題点からすると、幾度も手術が繰り返されたりとか長期入院といった案件では全然あり得なくないお話なのです。
真相解明のための検証手続なのですから、極端にいえば、徹夜してでもやるべきケースだってあると思うわけで、どのような背景事情があるにせよ、裁判所には本末転倒とならないような運用をしていただきたいと思います。

2019年12月15日 > トピックス, 医療事件日記

医療事件日記~ある肝生検事故の書類送検のご報告

葵法律事務所

提訴時に報告させていただき、その後も訴訟経過を随時報告するとお伝えしていた、「生後11か月の女児に対して肝生検が施行された後、出血多量で亡くなった」という死亡事故の件ですが、担当した2名の医師が11月16日に横浜地方検察庁に書類送検となりました。
事故から9年が経過してのことですが、警察による執念の捜査がやっと一つの区切りを迎えたことになります。
いろいろな思いはありますが、警察の方々の努力に敬意を表したいと思います。
裁判と関連するところもあるので、今回の書類送検について、差し支えない範囲でご報告させていただきます。

最初に申し上げておきますが、今回の事件につきましては、私たちが代理人に就く以前からずっと警察による捜査が進められていたものです。
肝生検後の出血への対応を怠ったことによる事故であることが明らかな状況であったにもかかわらず、事故直後の病院側の説明が「死因は不明だが、病院には責任はない」等、あまりにひどかったこともあり、遺族が強く要望してただちに警察介入となったのでした。

もっとも、私たちの基本スタンスとしては、医療事故を刑事事件化することにはあまり積極的ではありません。
医療過誤は、それ自体は起きてはならないものであることはもちろんですが、日常の医療行為の中では避け難いところもあります。
また、医療事故の真相を突き詰めて行くと、個々の医療者のヒューマンエラーの背景には、医療現場の実態、悪しき医療慣行、医療者の養成システムの歪み、さらには国の医療政策の問題などの事情にこそ真の原因があるのではないかと感じることが少なくありません。
しかし、刑事事件の中では、事件に直結した個々の医療者のヒューマンエラーを取り上げることになり、それは時に個々の医療者の将来を絶つことになってしまう面もあり、また、それでは医療事件の真相究明、再発防止に必ずしもつながらないのではないかという葛藤があるからです。
ただ、それでも、事件によっては、医療過誤事件を刑事事件化することはやむを得ないというか、むしろ、刑事事件化するしかないと感じることも、残念ながら、ケースによっては間違いなくあります。
そして今回の肝生検の死亡事故は、まさにそのような事案だと感じています。

私たちが、医療事件について刑事事件化やむなしと考えるのは、以下のような場合です。
まず、当該医療事故が「たまたま起きた」というものではなく、医療機関の内部等に事故を誘発するようなバックグラウンドが存在していることが強く疑われる時です。
そうした場合には、民事事件による解決のみでは、医療側が自ら事故を誘発する仕組みを変えようとしないことも少なからずあるので、さらなる被害者の発生を回避するためには、刑事事件化によって、根本的な仕組みの変更を追求して行かざるを得なくなるわけです。
実際、民事事件での個々の案件の解決については、ほとんどが保険会社に委ねられるので、病院側は危機意識を感じなくなることもあるでしょうし、事故を誘発する仕組みを変えることは、ビジネスとしての医療にとってはマイナスに働くという面も時にあります。
医療側がそのような意識で事故と真摯に向き合っていないという傾向は、医療経営が厳しくなっている昨今の状況でより強くなっているように感じます。
現に、今はまだ調査中の事件なのですが、内部告発を受けている医療事故があり、それも突き詰めていくと、営利追求型医療モデルが行き過ぎた結果、不幸な事故が起きるべくして起きてしまったのではないかという症例もあります。

もう一つ、刑事事件化を考慮せざるを得ない類型としては、民事事件のみでは真相解明が難しい場合です。
実際、事故が起きると、医療側は、様々な言い訳をして来ることがあります。
死亡事故で、死に至る機序は明らかな症例について、時に荒唐無稽な医学的主張を出してくるのは、もはや常套手段といっても過言ではありません。
これは、民事事件では原告側、刑事事件では警察、検察側が主張立証責任を負っているからなのですが、医療側が「一見あり得そうな他の可能性」を主張してきた場合には、捜査機関の協力を得て、司法解剖や厳密な鑑定、専門医への意見照会などを行っておくことが必要となることがあり、そうなると被害者側でも刑事事件化に踏み切らざるを得なくなるわけです。

実は、私たちは、本件の場合、この両方に該当すると考えています。
今回の書類送検では二人の医師が送検されましたが、事故の背景に、本件病院において、小児の肝生検に異常なまでに力を入れていた当該部門の体質の問題があるのではないかというのが私たちの心証であり、警察も同様の捉え方をしているようです。
また、今回の事件では、事故直後から、病院側は、肝生検後の出血のせいで死んだのではないとして、耳慣れないような医学的主張を行って、責任を否定し続けており、裁判でも同様の主張をしています。
しかし、亡くなった女児の腹腔内には、解剖により腹腔内に360mlの出血があったことが確認されています。
人間の体の総血流量は、体重の7~8%、この子の体重は当時8キロですから、総血流量の2分の1を優に超える出血が起きていたことになるわけです。
3分の1を超えると致死的ですから、当該事故は明らかに出血死だというのが常識的な捉え方のはずであり、私たちが意見を求めた複数の医師はすべてそのような意見を述べておられます。
死に至る経過を見ても、肝生検後間もなくから、脈拍数は200を超え、呼吸数も50台から60台へと上昇し、さらに四肢冷感、チアノーゼも確認されていて、その後ショックに陥っており、X線画像上も出血を示唆する所見があったわけですから、なおのこと、そのような見解が支配的でした。
にもかかわらず、病院側は、早い段階から、本件が出血死であることを否定し続けます。
また、肝生検の際、医師は、肝臓を6か所も穿刺しており、それが大量出血を招いたのですが、医師らは、穿刺回数について最初少なめに説明し、電子カルテの改ざんまで行っています。
私たちの目から見て、本件の場合は、関われば関わるほど、刑事事件化は不可避の案件なのだと強く感じるようになりましたし、むしろ、医療側の事故後の対応こそが刑事事件化を招いたのだと実感しています。

現在、民事事件の方も大きな山場を迎えようとしています。
近々、こちらがこれまでに入手した、医療側が驚くであろうものも含めた証拠を提出し、併せて医療側の医学的主張の誤りについてもきちんと指摘する予定ですが、医療側に対しては、書類送検にまで至って事態を重く受け止め、患者のための医療に取り組むという姿勢が不十分だったことや電子カルテの改ざんの件も含め、事故後に悪質な責任逃れに終始していたことを真摯に反省し、逆に、この事故を契機に、二度とこのような事故を起こさないために何をすべきかこそを真剣に考えてもらいたいと心から求めつつ、引き続き、全力で裁判に取り組んで行きたいと考えています。
この事件については、また、経過をご報告させていただきます。

2019年12月01日 > トピックス, 医療事件日記
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