事務所トピックス

事件日記~将来の相続への備えのお話

葵法律事務所

高齢化が進んでいる影響もあるのでしょうが、ここのところ、当事務所でも相続開始後の遺産分割だけでなく、遺言や将来の相続に関する相談や依頼が多くなっているように感じます。
遺言だけでなく、いつか必ずやって来る相続という事態に、前もって備えておくことは、せっかく蓄積してきた財産を次の世代のために残せば、大切な人たちの生活を安定させることに繋がりますし、親族間の無用の紛争を回避できることにもなります。
ところで、将来の相続への備えといっても、相続それ自体への備えと、将来納めることになる相続税への備えという問題があります。
というわけで、このあたりの考え方を整理しつつ、ポイントになりそうな点についてご説明してみたいと思います。

相続税対策とは、端的に言えば、将来の相続税の申告の際に納める相続税を少しでも減らして相続人等に少しでも多く残すための備えということになります。
今の政治が、国民から巻き上げた税金を一般国民のためにちゃんと使ってくれていないという現状も考えれば、国民としてはなおさら無駄な税金は払いたくないところでもありますが、なんにせよ、遅かれ早かれ必ずやってくる事態への備えをしっかりやっておくかどうかで、納める税金が大きく違ってくる場合があることは間違いありません。
一方、全体的な相続対策は、たとえば、自分が死んだ後に子供たち同士でいがみ合わないでほしいであるとか、逆に、自分の世話を一生懸命やってくれた人に多く残したいとか、あるいは、残された人の将来を心配して憂いなくしてあげたいとか、相続税を少なくするということ以外にも、様々な動機があり、あらかじめ何ができるかをより広い観点で検討しておくべきものです。
仮に相続税の基礎控除の範囲内に収まる遺産しかなく、相続税を納める必要がないとしても、いざ相続となれば、相続人間で揉めることはいくらでもあることですから、そうならないためにも、相続対策をやっておく意味はやはり大きいといえるわけです。

ただ、この相続税対策と相続対策は、一応区別できるものの、実際には関連し合っているところがあります。
相続税対策が相続対策になっているところもあれば、逆に相続税対策として行ったことが相続にいろいろと影響を及ぼすこともあります。
したがって、具体的に何が可能か、何をしておいたらいいかは、総合的に考えておく方がよいといえるわけです。
相続税に限りませんが、税の仕組みや運用は、しょっちゅう変更されたりしますし、かなりテクニカルなところもあり、本来は税理士さんの領域です。
一方、相続対策は、生前中の権利調整をしておいた方がいい場合や遺言の作成の必要も出てきたりとかで、トータルに考えておいた方がいいところもあるので、こちらについては弁護士の領域といえます。
まあ、経験が一定以上ある方であれば、弁護士でも税理士でもどまちらでもいいといえますが、それぞれの強み、弱みもあり、視点や発想の違いもあるので、弁護士と税理士がうまく連携できるのが一番望ましいように思います。
実際、当事務所でも、税金の問題が絡むような事案では信頼できる税理士に常に相談できるようにしています。

ところで、相続税対策が必要か否か、そして、具体的に何をすべきかは、当然ながらその方の財産状況によって選択肢が大きく異なってきます。
不動産が多ければ、そのままがいいか、あるいは不動産を処分、あるいは借金をしてアパートを建てたりする方がいいのか、また、それを誰の名義で建てるのがいいのかといったことを比較検討したりするのに対し、預貯金や有価証券類が多いような場合には、不動産と違い、そのままでの評価となりますので、住宅資金贈与や教育資金、さらには生命保険等に関する税法上の特例のうまく利用することを検討して行くことになります。
もちろん、元々遺産となるものが明らかに基礎控除の範囲内ということであれば(定額で3000万円、さらに相続人の人数×600万円)であれば、そもそもこうした対策は必要ないことになりますが、気をつけなくてはならないのは、特例を利用すれば相続税がかからないとか大きく減るというケースでは、申告そのものはしなくてはならないということです。

相続税対策となるようなものはいろいろあります。
たとえば、住宅資金贈与については、法定相続人の場合、一人1000万円までということで遺産を目減りさせる効果が大きいのですが、対象不動産や期間などの要件がありますので、注意が必要です。
生命保険の特例は一人500万円でこちらも節税効果としては大きいのですが、高齢になると、利用できる生命保険は限られて来ます。
ですので、この特例を利用するのであれば、できるだけ早く検討されておいた方がいいと思います。
もっとも、最近扱ったケースでは、外貨建てですが、90歳以上の方が加入できる生命保険があり、円安が進んでいる中では外貨建てのリスクが低くなるというメリットがあり、非常に有効な対策になりました。
ほかにも、条件が合う人であれば、教育資金贈与、さらには相続時精算課税制度といった節税対策もありますし、一般的に知られているところでは、「年110万円までの贈与に贈与税がかからないという特例」が「塵も積もれば山となる」で有効ですが、制度変更があり、恒例となってから始めるのでは効果が見込めない場合も出て来るようになりましたので、気をつける必要があります。
あと、年110万円の贈与については、贈与されたという実体がないと「名義預金」、つまりは遺産として扱われてしまうので、こちらも注意が必要です。
とまあ、いろいろとあるわけですが、こうした相続税対策は細かい条件や非常にテクニカルなところもありますので、専門家の助言を受けられるようお勧めします。

以上に挙げたような相続税対策ですが、相続本体への影響が当然あります。
あらかじめ、特定の相続人が遺産の前渡しを受けるということになるので、その分がいわゆる特別受益にあたると評価されることになるからです。
全員が平等にもらっていればいいですが、現実にはそういうケースの方がむしろ少なく、それが紛争のもとになることが往々にしてあるわけです。
そうした紛争をできるだけ避けるために、最も有効な手段は遺言を残しておくことです。
ただ、遺言も万能ではなく、いざ相続開始となれば、特別受益の問題は出てきます。
しかし、遺言の作成の際に、そうした経緯も踏まえて、条項中に、遺言者の想いを丁寧に綴っておくことで、相続人間の疑心暗鬼を解消することができて紛争回避につながることも期待できます。
ほかにも、たとえば、ずっと献身的に面倒を見てくれた相続人により多く残したいというような場合にどうするかなど、具体的な事案に応じて取れる選択肢はいろいろとありますが、やはり非常にテクニカルで創意工夫が必要なところがありますので、こちらについても、早め早めの対策をご検討されることをお勧めします。

2023年10月02日 > トピックス, 事件日記

日々雑感~「VIVANT」の最終回を予想する

弁護士 折本 和司

仕事に追われていると、行き詰って現実逃避をしたくなる時があります。私の場合、現実逃避で文章を書いたりすることがあり、たとえば、「カニーノの大冒険」という童話を以前書いたことがあるのですが、それも仕事に行き詰っての気分転換で生まれた作品でした。ここのところでもハードワークが続いているため、気分転換で、今話題の「VIVANT」に関する記事を書いたりしましたが、ちょうど最終回を目前にしているということもあって、どのような展開になるのか、ちょっと閃いてメモにしようとしていたら、そのまま文章が出来上がってしまいました。

というわけで、今週末の最終回の前だから意味がある?やもしれぬ「VIVANT」の最終回の展開を予測する記事を書いてみました(ただし、詳しいのは前半だけです)。

ちなみに、この文章は、昨日のうちに友人に読んでもらっていて、なかなか面白い考察だとの評価をいただいたので、ちょっと自信を深めてアップすることにした次第です。

なお、予測が大きく外れていた場合は週明けに即削除しますので、あしからず。

「VIVANT」最終回前半の展開

日本政府とバルカ政府の利権を我が物にしようとする一派が暗躍、テントや別班の中にも裏切り者がいることに乃木は気づいていた。

実はそれをベキとノコルにすでに伝えており、一芝居打つことにした。
まずは資金不足を一気に解消することで、相手の動きを早めさせ、その動きから裏切り者を炙り出すという作戦だ。
日本国内で別班の持つ企業の不利益情報を使った株の信用取引で1000万ドルの利益をあげることで、フローライト採掘に向けての目処が立ったことをテント内の裏切り者に知らしめる。
事態の進展に焦った裏切り者は、バルカ政府側にフローライトの情報を流しつつ、目障りな乃木を排除しようと動く。
裏切り者と繋がるバルカ政府の人間がフローライトのことを知っているとノコルに分からせる動きをして、乃木に疑いがかかるように仕向け、一方で、別班内にいるモニターから殺されたはずの別班のメンバーの生存情報をテント側に流させ、乃木が別班のスパイだとベキ、ノコルに思い込ませようとするのだ。
しかし、この作戦自体、テント内の裏切り者が、ベキ、ノコル、乃木、櫻井が仕組んだ罠に引っかかった結果であり、それによって、テント内、そして別班内の裏切り者が誰かが明らかとなるのだ。
別班側の裏切り者は長野専務、テント側の裏切りものはピキだった。
乃木から報告を受けていた櫻井は長野を疑い、バルカから戻った別班員の入院先の情報を長野だけに流しておいた。
ピキからの連絡を受けた長野は櫻井の仕掛けた罠にまんまと嵌って、乃木を陥れようとする計画に加わってメールを送り、墓穴を掘ってしまった。
野崎は乃木からの連絡を受けて、長野の逮捕に動く。
太田がブルウォーカーであることを知り、山本を動かしたのは長野だったことが明らかになる。
長野は別班に所属していながらテントに情報を流し、さらにはバルカ政府ともつながる三重スパイだったのだ。

この考察の根拠は、消去法です。前提として、別班の乃木がそうやすやすと正体や意図を知られて縛られるということは考えにくく、これは策略であると見ると、それは、テント内にいるバルカ政府側と繋がっている裏切り者を見つけ出すためということになるし、おそらく日本国内にもそのような人物がいるはずと読みました。そこで日本でのモニターが誰かとなるのですが、まず、死んだはずの4人の顔を知っている人物ということになります。しかし櫻井は顔を知られているので、そばでカメラを向けられて無反応ということはあり得ず、それ以外の人物となります。野崎、ドラムは、日本に送り届ける役目を果たしているので、4人の顔は知っていますが、ジャミーンの手術が日本で行われたことを知っており、ベキが生存を知り、驚いたことからして、彼らも違いますし、薫も同様です。となると、引っかかってきそうな人物は長野以外には思いあたらないことになります。そこで彼のメルアドを見返すと「777」と7が組み込まれており、7はテント内で何か意味を持つような使われ方をされている数字であるということ、死んだ山本が、太田がブルウオーカーであることを別の人間から聞いていること等から、長野が別班の人間であり、かつテントのモニターであると推測しました。そして、長野の密告メールをどんぴしゃりのタイミングで受け取ったのがピキであること、ノコルがピキの前で乃木を疑っている態度を露骨に示していることやフローライトの交渉にも関わっていること等から、テント内の裏切り者はピキと予想しました。というわけで、前回の後半の展開は、テント、別班双方の内側にいる裏切り者を炙り出すための罠だと見れば、腑に落ちます。

 

なお、「VIVANT」最終回の後半というかクライマックスについては、全然読み切れていません。もちろん、ストーリーの概略としては、乃木、ノコル、黒須、野崎、チンギスらが力を合わせて義賊であるベキの夢をかなえるという展開になるはずですが、ジャミーンの出自も不明であり、具体的な展開については想像すらつきません。ただ、おそらく、前半で明らかとなる裏切り者をうまく利用して、敵方に偽情報を流して罠にはめるといった流れがあるのではと思っていますが、そこから先は、敵方の人物がバルカ政府の大臣、日本大使くらいしか見えていませんので(もしかしたら丸菱商事も)、観てのお楽しみということにしたいと思っています(ずっと気になっているのは、ジャミーンの抱えているぬいぐるみと、山本の家にあった野崎がじっと眺めていた絵ですが、何か関係してくるのでしょうか?)。

もっとも、エンディングについては、ベキのある発言から推測して、おそらくシンプルなハッピーエンドにはならず、ほろ苦く、余韻を残すようなものになるだろうと見て、ある程度具体的な予想もしてはいるのですが、事前に書くのも無粋な気がしますので、ここでは触れないことにしました。

ともあれ、考察で盛り上がった「VIVANT」、最後まで楽しみたいと思っています。

 

 

2023年09月13日 > トピックス, 日々雑感

日々雑感~「VIVANT」と「シビリアンコントロール」

弁護士 折本 和司

この夏最大の話題のドラマとなっているTBS日曜劇場の「VIVANT」ですが、主演の堺雅人さんや阿部寛さんのファンだということもあり、またそれとは別の興味もあって、放送開始から毎回欠かさず観ております。

ドラマとしてみても、毎回あっと驚くような展開や仕掛けがあって非常に面白いと思いますし、ともすればちまちまと日常風景の中での出来事をなぞるようなここのところの日本のドラマと違って、スケールが大きく、テンポもよくてとても見ごたえがあります。

あと、なんといっても、堺雅人さん、阿部寛さんをはじめ、非常に芸達者な役者さんが揃っていて、その熱い演技力でぐいぐい惹きこまれるのも大きな見どころといえるでしょうし、話題となっている伏線と考察の盛り上がりも一興といえます。

ただ、何より私が興味を惹かれるのは、「VIVANT」が、自衛隊の裏組織とされる「別班」を扱っているということです。

この「別班」は、非合法組織と言われているだけに、それをどのような切り口で描くのかは、単なるエンターテインメントでは済まないところがあると思うからです。

なので、今回はそうした視点から「VIVANT」を取り上げてみたいと思います。

 

この記事の時点で「VIVANT」はすでに7回目の放送を終えていますが、実のところ、「別班」をどのように位置づけて描こうとしているのか、その全体像は未だ見えていません。

主演の堺雅人さんが「別班」の人間ということなので、普通に考えれば、正義のための組織のような描かれ方になる可能性もあります。

最もわかりやすい図式で言えば、国際テロ組織とされる「テント」と日本の警察組織の「公安」、そして「別班」の間の三つ巴のような展開が考えられます。

しかし、私はそのような展開にはならないと予想していますし、あの福澤克雄さんが練りに練った原作だけに、シンプルな勧善懲悪ドラマになるはずはないでしょう。

実際、第7回の終盤あたりでも、今後、一筋縄で行かないだろうなと匂わせる衝撃的な展開がありましたが、「別班」という組織を巡る複雑な背景(もちろん、それ自体はフィクションということになりますが)が明らかにされるに違いないというのが現時点における私の予想です。

 

ただ、ドラマの筋書きの予想というよりは、「別班」を単純な正義の味方のように描くことについては、やはりそれはあってはならないというのが私の願いでもあります。

なぜならば、この「別班」という組織は、実在するのであれば、憲法が定めたシビリアンコントロール(文民統制)の枠組みから逸脱する存在と考えるからです。

私がこの文章を書こうと思った理由もそこにあります。

そもそも、憲法66条がシビリアンコントロールを定めたのはどうしてかということを過去の歴史を踏まえて理解しておく必要があります。

それは、かつて、日本の軍部が力をつけ、暴走して、あの悲惨な太平洋戦争を引き起こしたことへの反省を教訓として、軍人、あるいは元軍人が権力の中枢に入ってはならないということであり、それゆえ、憲法に、わざわざそのような規定が設けられたという経緯なのです。

もちろん、文民のみと制限しても、侵略戦争を厭わないような人間が権力を握る可能性はあるわけですが、軍部を代表するような人間が権力中枢を担わないと定めておくことの「歯止め」としての意義は非常に大きいといえます。

このシビリアンコントロールの規定に従えば、内閣が承知しないような諜報機関のような組織が存在すること自体、非常に危険なことで、憲法上決して容認できないことといえるわけです。

ただ、ネットの記事やコメントを見ていると、緊張感の高まっている国際情勢の影響もあってか、「別班」のような組織が必要であるとシンプルに肯定的にとらえている人も少なからずいるように感じます。

しかし、大切なことは、諜報的な活動をする組織が存在していいかどうかということと、そうした活動をする組織について主権者たる国民が知り、チェックし得るようにしなくてはならないかどうかということは、分けて考える必要があるし、まったく意味が異なるのです。

国民が知り得ないところで、「別班」のような組織が暴走することを容認するようなことがあってはならないし、そのためのシビリアンコントロールなのです。

 

まあ、ドラマごときで、そんな原則論を振りかざすこともないだろうといった醒めた意見をお持ちの方もおられると思いますし、私自身、ドラマそのものについては、「007」や「ミッションインポシブル」のように楽しめばいいと思ったりもするのですが、やはり時に非合法な活動を厭わないとされ、シビリアンコントロールから逸脱する存在と位置付けられている「別班」だけに、単なる娯楽作のような描き方はされないだろうし、そうあってはならないと思うようになったわけです。

実は、私なりに、あと2週間余り後にやって来るドラマのエンディングを予想したりもしていますが、どうかシビリアンコントロールの大切さをどこかで感じられるような結末であってほしいと、そんなことを思いながら、引き続き、「VIVANT」をわくわくと楽しみつつ、視聴して行きたいと思っています。

そして、ドラマがエンディングを迎えたら、あらためてこちらで取り上げてみるつもりです。

2023年09月01日 > トピックス, 日々雑感

事件日記~遺産分割調停手続における最近の傾向

葵法律事務所

裁判所における手続というのは、法律の基本書とは結構違うところがあります。
なので、習うより慣れろで、実務の場数を踏むことも大切だったりするわけです。
もちろん、裁判官によるやり方の違いといったこともあって、裁判官が転勤で交代して進め方や、事件の争点の捉え方がガラッと変わることも、そんなに珍しいことではありません。
ですので、変な話、裁判官の対応に疑問を感じたり、正直、合わないなと感じるときは、心の中で「早く転勤してくれないかな」なんて思っていたりすることもあるわけです。
一方、個々の裁判官のやり方というよりは、裁判所内部で、この種の事件の手続は今後このように進めて行こうという方針が立てられた結果として裁判手続が変わったなと感じさせられることもこれまた少なくありません。
裁判も、時代にあわせてどんどん進化、変異していくのです。
最近、遺産分割調停事件で、そのような経験をしたので、ちょっと取り上げてみます。

遺産分割の案件では、私たちが整理の過程で特に心がけていることがあります。
遺産分割では、まず遺産の範囲を確定し、次に遺産の評価を行うなどして、遺産の総額を把握することが論理的には先行します。
そのうえで、遺産に対する取り分(相続分)を確定して行き(もちろん、その中で本来の相続分ではなく、特別受益や特別寄与などの調整的な要素があるか否かの検討を行うこともあります)、そこから、誰がどれを取得するかといった具体的な分配方法を決めていく流れになるのです。
弁護士として、このような流れを意識しておくことはとても大切です。
というのは、実際の遺産分割の相談では、相談者は、この不動産がほしいとか、この金融資産がほしいという話にったり、自分はこんなに貢献したとか、相手は生前にこんなにもらっているといった話になることが多いのですが、そうした各論部分に入る前に、上記の順序で事案を整理していかなければ、そもそも相談者の希望がかなえられるかどうかがきちんと見極められないし、方針も立てられないからです。

以上のお話は、私たち弁護士が遺産分割事件を扱う上で必要な論理的な思考プロセスなのですが、最近、複数の遺産分割調停の手続で、裁判所がこの思考の流れを積極的に取り入れ、それでもって手続を進めようとしていると感じるようになりました。
具体的にどういうことかといいますと、調停手続で、調停委員が、「遺産の範囲と遺産の評価を確定して、遺産の総額について双方が了解する」という手順にやたらとこだわっているという印象があります。
それ自体、考え方の順序としては正しいと思うのですが、実際の調停の場では、それが確定するまでは、ほかの話を受け付けないという態度に固執していたりするのです。
どうやら、それはたまたまということではなく、東京の家庭裁判所ではそのような方針で手続に臨むようになっているらしく、それが横浜の家庭裁判所にも波及しているのかもしれません。
実際、東京や大阪などの大規模庁での手続きの進め方が周辺、そして地方へと波及するということはよく見られるのですが、この遺産分割調停の進め方についてもそのような流れなのでしょう。

しかし、率直に言って、このやり方を強く推し進めることについては、間違いとまでは言いませんが、やや柔軟性に欠けるという気がしてなりません。
確かに、「遺産の評価を確定して、遺産の総額について双方が了解する」ことが論理的に先行することはそのとおりですが、実際の協議の中で、並行して、分け方の議論をしたり、相続分の調整に関する言い分をぶつけ合うことをやっておくことは、手続をスムーズに進めることに有用なケースはいくらでもあるからです。
また、遺産の総額が確定するまで解決方法に関する具体的な話し合いができないとなると、かえって手続が延び延びになってしまうこともあり、ケースによっては、一方だけが利益を得て他方が不当な不利益を受けることも決して少なくないのです(一方が遺産である不動産に居座っているような場合なんかがそうです)。
ですので、原則論はともかく、裁判所においても、ケースバイケースで柔軟な進行を心掛けてもらいたいと思ったりするわけです。
ただ、いずれにしても、弁護士としては、こうした実務の状況を理解しておくことが大切であることに変わりはありません。
何事も日々精進ですね。

2023年08月21日 > トピックス, 事件日記

日々雑感~原爆の日と「バーベンハイマー」

弁護士 折本 和司

明日は世界で初めて核兵器が広島に投下された8月6日ですが、その直前にとんでもないニュースが入ってきました。

それは、「バービー」と「オッペンハイマー」というアメリカ映画の名前を組み合わせた「バーベンハイマー」なる造語に関するものです。

一部のSNSで、ミーム化というのだそうですが、バービーにきのこ雲を重ねた合成画像が出回り、あろうことか、「バービー」の制作会社であるワーナーブラザースの本体がその画像にハートの絵文字をつけ、「忘れられない夏になりそう」といったようなコメントまでつけたというのです。

 

今から78年前の広島と長崎への原爆投下により、何十万人もの人が命を奪われ、生き残った人の多くが放射線の後遺症に苦しみ、亡くなられて行きました。

私も地元の人間として、また弁護士として、被爆者の方々の苦しみを直接耳にしてきました。

ただ、私は被爆二世ですが、アメリカを憎むという気持ちはなく、核兵器を発明し、その核兵器を使い、あるいは保有することで、他国に圧力をかけることをいまだにやめようとしない人類の愚かさを嘆いているのです。

 

今回の問題についていえば、バービーにきのこ雲を重ねた合成画像を作った人間は無知で愚かな人なのだと思うのですが、それよりも、その馬鹿な合成画像に大手の映画会社が好意的な反応をしたことは、到底容認できません。

核兵器で世界を脅すような究極の瀬戸際外交が最後に世界に何をもたらすのか、ちょっと想像力を働かせればすぐにわかるはずだし、あのきのこ雲の下で多くの人が亡くなったり、苦しんで逃げまどったりしたのですから、よりによって、そのきのこ雲にハートマークをつけるなんてあり得ないし、人々に夢を与えるはずのエンタメの大手企業としてはあまりに無分別というほかないからです。謝罪して済むような問題ではありません。

 

また、今まさにリアルタイムで起きているウクライナに対する侵略でも、ロシアが核兵器の使用をちらつかせているため、欧米各国も及び腰の対応となっていて、2年半が経過しようとしているのに、いつまでも侵略が終わらないという状況からも明らかなとおり、人類がこの地球上で生き残るためには、核廃絶しかないというのが私の意見です。

現実には決して容易なことでないにしても、核廃絶という理想を捨ててはならないと、心からそう思っています。

 

そのことをみんなが真剣に考えるきっかけとするためにも、「バービー」の日本での封切には強く反対しますし、仮に封切られても、私は観に行かないし、周囲の人には観に行かないように働きかけて行こうと考えています。

 

広島、そして長崎の原爆の日を迎え、一人でも多くの人にそんな想いを共有してもらいたいし、核廃絶の理想を心に抱き、何らかの形で発信していただければと、そんなことを考えています。

2023年08月05日 > トピックス, 日々雑感
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